You're all surrounded [最終章−前編]
最終章 未来・前編
[1]
**2019年4月某日 ~服部平次の記憶**
和葉と再会して、2年が過ぎた
隣り合わせの部屋に暮らす和葉とは、正真正
銘の恋人同士になって、1年以上が経ち
公私共に最高のパートナーとして、一緒に過
ごす日々は幸せや
来月には、和葉は28歳、オレは26歳になる
オレに背中を向けて眠るオンナを抱き締めた
素肌に顔を寄せて、肩甲骨のあたりにそっと
キスをした
和葉と再会して、あっと言う間に恋に落ちた
けれど、その道のりは決して平坦ではなく
事件後も、オレと和葉は不安定な精神状態が
暫く続いたんや
仕方ないと思う
普通じゃない日常を、10年以上過ごして来
たんやから
せやから、恋人へのステップを、踏みたくて
も中々踏み出せへんでいた
キスやハグさえもギリギリで
そんなオレらの前に、おばちゃんは何度もや
って来ては、目一杯スキンシップを図り、オ
レらを甘やかしてくれたんや
多分、そうする事でオレらに、愛情表現をおばちゃんなりに教えてくれたんやと思う
オレの方が少し早う、和葉と心身共に結ばれ
たいと願うようになって、和葉の気持ちが揃
うのを待っていたんやけど、中々踏み出し切
れなくて、そのうち、和葉が落ち込むように
なってしもうた
せやから、提案した
隣り合わせの部屋に暮らすけれど、オレ達に
はまずリハビリ期間が必要やって
まずは、一緒に飯を食ったり、のんびりと時
間を過ごしながら、一緒に眠ることに慣れよ
うやって
キスやハグはちゃんとしよう
ケンカしても、何をしても、顔を合わせたら
する
まずはそこからやってみいひんかって
和葉の部屋を用意する支度を一緒に始めると
ころから、ゆっくりとスタートして、オレの
部屋にも、和葉の荷物を置いておくようにし
て、オレの部屋、和葉の部屋、どちらでも一
緒に眠れる環境を整えた
抱き締めて、抱き締められて
相手を感じて安堵出来る事に慣れた辺りから
オレも和葉も悪夢に魘される事は減り、安眠
出来るようになった
オレも、和葉と一緒やったら、電気を消して
眠れるようになったんや
そこからは、自然とそう言う行為を出来るよ
うになるまでは早くて
抱き締める腕に力を込めると、くるん、と向
きを変えて擦り寄って来た和葉
この瞬間がとても好きやと思う
そっと深く抱き締めて、額にキスをして、目
蓋や頬、耳にと唇を押し当てながら微睡む
ガキの頃からホンマに好きやった
再会してからは、和葉の人生をオレの事で振
り回していた事を知り、深く傷付いたりもし
たけれど
それが何なん?と言う和葉の強さに、改めて
惚れ直したりもした
これからも、この先も、隣に居って欲しい
この春は、また新しい風が吹いた
風見係長の所へ、第二子が誕生した
優香ちゃんと言う可愛いらしい女の子や
そして、降谷夫妻の元にも
こちらは何と、男女の双子らしい
まだ榎本係長の腹の中やねんけどな
この間、和葉と一緒に腹を触らせて貰うた
元気よう、蹴り返す様子に、和葉は泣いて感
動しとったけど
工藤は、まだ府警で八面六臂の活躍をしてい
て、帰還していない
この春から、姉ちゃんも行ったから、あれは
当面帰っては来ないとオレは思うてる
冴島は、司法解剖を担当する女医と婚約した
沖田は、来年、榎本係長に背中を押された幼
なじみと結婚するらしい
黒羽は、2年前、帰還した青子嬢と結婚した
オレと和葉は、まだ結婚の話は出ていない
するなら相手はコイツ以外に居らんけど、仕
事とプライベートのことを考えたら、中々踏
ん切りがつかんかったんや
オレ、やっぱり和葉とが1番仕事、しやすい
んや
でも、いつまでもこのままと言うワケにもい
かんのやと言う事も、わかってた
和葉に、異動の話があるのも、海外赴任の話
が出ている事も知ってんねん
コイツは何にも言わんけど
抱き締めとるオンナの耳を甘噛みした
わかってんねん
ワガママ通すんも、そろそろ限界やって事も
和葉と、揺れる桜並木を散歩した日の光景を
思い出しとった
めっちゃキレイやったよな
桜も、和葉も
オレは、仕事の合間に、和葉が捜査で地方に
行っている隙に、行動に移した
ひとりで、あの街に帰ったんや
おばちゃんが管理しとってくれた家は、当時
のままやったけど、隣の遠山家は、更地にな
ってしもうた
昨年、おばちゃんが決断したんや
オレも、相続したこの家をどうするか、考え
なアカン時期が来ていた
片付いてはおったけど、オカンとの想い出が
仰山つまった家で、ひとり号泣した
もう、二度と生きとるオカンは
ここに戻っては来ない
もう、二度と逢えんのや
わかってはおるんやけど、ふと、台所から、
部屋から、オカンがひょいって顔を出すよう
な気がして、仕方が無い
大阪に、帰ろう
この家に、また暮らそう
手は入れなアカンけど、丈夫な家やから、何
とかなるやろ
和葉と一緒に生きて行くなら、どこでもええ
思うてたけど、オレは、この街に帰りたい
オカンと、おばちゃんと、和葉達と過ごした
この家に
改方学園にも、小学校にも、幼稚園にも足を
のばした
もう、大丈夫や
和葉や、おばちゃん、仲間達がオレを強くし
てくれた
2年もかかってしもうたけど、もう、大丈夫
オカンとおっちゃんの墓も巡って、科捜研と
府警にも顔を出した
おばちゃんは、何も言わんかった
おかえり、平ちゃん、とだけ言うて、抱き締
めてくれた
次は、和葉と来るから、と言うて、帰るオレ
を、もう一度しっかりと抱きしめると、待っ
てるからね、と言うた
帰り途、オレはある店に立ち寄って、買い物
をした
「和葉?オマエ今日そっち泊まりか?」
「もう庁舎出て帰るとこや」
ほな、飯作って待ってる、と言うとラッキー
と言う返事があった
帰宅して、風呂入って飯を一緒に喰った後、
オレは和葉をソファに座らせた
その前に、正座したオレに、何、どないした
ん?と不安そうな顔をした和葉を、じっと見
て、深呼吸した
「今日、家に行って来た」
「家?」
大阪の、服部邸、と言うと、ひゅっ、と和葉
が息を飲むのがわかる
緊張して、冷たい手をしてる和葉の手を握り
ちゃんと目を見た
「学校も、全部周った、和葉と遊んだ公園と
か、全部や」
和葉の瞳から、涙がすべり落ちる
キレイやなぁ、と思うて見ていた
「もう、大丈夫や、和葉」
うん、うん、と大きく頷いて、オレの首に両
腕をまわして抱き締める和葉を、しっかりと
抱えた
「オレと、結婚してください」
和葉と一緒に、帰りたいんや、あの街に
ぎゅっ、と抱きしめて泣きじゃくる和葉を抱
いて、抱えた頭にキスをした
オレの服を掴んでる和葉の左手を取って、永
遠の約束を誓う指に、リングをはめた
え、と驚いた顔をした和葉にキスをする
ありがとう、と言う気持ちを込めて
オレの事なん、放して、幸せになったらええ
のに、実のオカンと離れてまで、オレの事、
捜しまわってくれて、事件も解決してくれた
「オレの和葉はめっちゃかっこええ」
そう思うてる
泣きごとも言わんと、刑事の厳しい仕事をこ
なして、不安定なオレを支えてくれた
自分かて、精いっぱいなのに、姉気分が抜け
んのか、意地張って頑張ってまうあたりも、
オレは尊敬もしとるし、惚れてもおる
今まで散々、手を引いてもろうて、導いても
ろうて来たんや
ここから先は、オレが返す番やと思う
「オレなりに、精いっぱい大事にします
せやから、オレと、一緒になってください
お願いします」
そう言うたオレに、はい、と言うてくれた和
葉を、精いっぱいの気持ちを込めて抱いた
その後、京極家とおばちゃんと、関係各位に
和葉との結婚を宣言して、大阪府警への異動
願いを揃って提出した
大喜びしてくれた面々が、和葉にはきっと、
和装が似合うから言うて、京都の京極家所縁
の神社での、式を手配してくれて、和葉は、
あっと言う間に服部和葉と名を変えたんや
その年の12月
雪が降る京都での式は、偶然居合わせた観光
客にも騒がれて、大変やったけど、お世話に
なった面々、鳥蓮英治として養育してくれた
園の面々も参列しての式は、厳かで、幸せな
時間を運んでくれた
白無垢姿の和葉は、めちゃくちゃキレイで、
写真と内輪のお祝いの席でおばちゃんが着せ
たウエディングドレスもよう似合うてたんや
服部邸は、大きく改装する決断をして、オレ
はリフォームを申し込んだ
日本家屋の趣は殆ど変えないようにして、中
の部屋割や家具を大きく変えた
一部屋は、オカンの想い出のあるモノで残し
後は、オレ達と、おばちゃんと、いずれ親父
も呼べるように、改装したんや
それは、和葉の願いやったから
元々広い家やったから、子供が出来たとして
も余裕があるし、おばちゃんがずっと護って
くれたから、庭もほとんどそのままにして
更地になっとった隣の元遠山家の跡は、何と
工藤の両親が買い取ったんや
いずれ、自分達も海外住まいを終えて帰国す
るから、とか言いながら、もう東京に帰る気
の無さそうな息子と、息子の嫁候補に、買い
与えたんやろな
オレの家のリフォームと同じ業者に頼んで、
2軒並ぶ家は、どちらも和モダンな雰囲気の
家となった
敷地的にはうちの方が広くて、部屋数も取れ
たんで、工藤家にたくさん人が集まった時は
うちへ泊めてええで、と言う事にして、密か
に工藤家と服部家は裏庭から行き来出来るよ
うにしてん
翌春
桜の美しい季節に、2軒の家は完成し
姉ちゃんは、美しい花嫁となって工藤家へと
嫁入りした
質素でいいので、仲間と一緒に寛げる式が良
いと言う姉ちゃんの希望を叶え、オレと和葉
が幼い頃によう遊んだ神社に頼んで式をして
もらい、服部邸の客間を開け放して、宴会を
したんや
中庭の桜も見事で、みんなが楽しそうに飲め
や騒げやしとる家で、オレと和葉は時々、そ
こに笑っとるオカンの姿を見るようになった
親父も、会長職を後任に譲り、引退して、最
初は渋っていたが、和葉の熱意に折れて、こ
の春から同居する事になり、
おばちゃんも、新婚家庭に邪魔したくないと
か何とか言うてたけど、最終的に和葉に、も
し子供が出来たらお母ちゃんの手も要るから
と説得されて、一緒に暮らす事になったんや
親父は、京極家の主と結託して、近隣の空家
を買い取って、そこに剣道場と保育施設を構
えて、経営する事になってん
真氏の嫁、園子さんが、昔から保育園を設立
するのを願っていて、それを実現させてやり
たいと言う京極家と、幼い子らに剣道を教え
たい、と言う親父の願いで設立する事になっ
たらしい
現在はその準備に追われている親父は、春人
のところへもこの間行って来たと言う
結婚して一緒に渡米した嫁との間に子供が生
まれて、さらに、仕事も順調らしいと知って
安堵しとった
ちなみに、池波源太郎は、裁判でも中々罪を
認めなかったが、裁判中、組織の連中に暗殺
されてしもうたし、瑠花は、取り調べや裁判
に耐えられんと、自殺してしもうたんや
親父はその2人を、手厚く葬って、後始末も
ひとりでしたんや
後味の悪いだけの事件やったけど、それでも
オレらは前を向いて、オレらのような目に遭
う人が少しでも減るように頑張らなアカン
東京から大阪へと拠点は変わったものの、オ
レらは相変わらず元気で、東京に残った面々
も、東京に戻るのを止めた工藤や、降谷夫妻
も、新しい生活をスタートさせた
そう、降谷夫妻は、結局大阪にとどまった
育児休暇中やった奥さんが、都会で双子を育
てるのは大変やって言うて、大阪で、後輩の
育成、つまり警察学校の教官になる道を選ぶ
事になってん
育児休暇が明けたら、先生になる、と笑う
榎本係長はしっかり母になっとった
大滝ハンの右腕として、刑事部長になった夫
を支えて、子育てと仕事を今度こそ両立させ
るというて決断したんや
海(うみ)くんに、知(とも)ちゃんと言う
双子が生まれたんは、昨年の初夏の頃で、半
年以上過ぎた今はもうぱんぱんな手足や顔が
愛らしい
父親の髪質と瞳の色を受け継いだ2人は、肌
は母親に似たらしく、姉ちゃんと和葉は、
「こらどっちも、モテモテやで、きっと」
幼稚園から、みんなで取りあいになるわねと
噂しとるくらいや
ちなみに、双子の名付け親は、オレと和葉
どうしても、と頼まれてん
オレらと再会せんかったら、生まれて来なか
った生命やから、と言うて
散々悩んで決めて、みんなに披露した日の事
は、覚えてる
亡くなった空と、繋がりを持たせたくて、色
々和葉と2人、悩んだ
長男の名前の由来は、自由に空を駆けまわる
ような男であれ、やったと聞いた
せやから、長男が空を駆けまわってるならば
弟は海を走りまわれ、と言う意味で海
そして、空と海の妹分が、天空を駆ける兄と
地上に生まれ落ちる弟を繋ぐように、と願い
をかけて、
「空を知り、海を知れ」
として、次男 海、長女 知とした
夫妻と榎本家の一族はとてもそれを喜んでく
れて、ほっとしたんがついこの間のような気
がするけど
もう抱っこしてもかなり重い2人に、子供の
成長の早さを感じた
榎本元係長の両親が、娘夫婦の決断を聞き、
今度こそ、全力でサポートすると、夫妻で東
京を引き払い、大阪に居を移すらしい
「おい、服部」
「はい」
「さっさと、海と知のおともだち、作っても
らわないと、困るんだけど?」
「ははは、そうやな
まぁ、大丈夫や、我が家は仲良しやし、本気
出したらすぐ出来ると思うで?」
オレ、若いしな、と笑うと、おばちゃんに頬
をつねられた
「平ちゃん、いっぺん大阪湾、沈んで見る
か?💢」
若さアピール、おばちゃん嫌いやねん
すんません、と言うとそれでいい、と笑う
そして、オレらが抱っこしとった海と知に頬
ずりして頬にキスをした
工藤家の宴席も終わり、翌朝、2人は大荷物
を抱え、東京へと新婚旅行に出かけた
「刑事が海外旅行とか、無理」
姉ちゃんの一言で、2人は生まれ育った街に
居る友達への挨拶回りと、警視庁に居る仲間
への報告に向かったんや
「工藤くん、最後までねばったんやけどな、
ダメやったーって、残念がってたで」
「そうなんや」
仕事帰りの車の中、信号待ちの車内で、濃厚
なキスを交わす
いまだに照れるその顔に、オレが余計煽られ
る事を嫁はまだ知らん
「そう言うオレらかて、新婚旅行も何も、無
かったやんか」
「そらそうや、プロポーズされて、翌月の誕
生日に入籍して、そっから家のリフォームや
ら引っ越しやらどたばたやったやん」
おまけに、お式はええ、って言うてたんに、
平次がやる、言うたから更にバタバタしたし
「だってオレ、当主やおばちゃんに言われた
ら、見たくなったんやもん…和葉の花嫁姿」
写真だけ撮って、独り占めもええなって思う
たんやけど、おばちゃんが、花嫁は祝福され
てなんぼやって言うし
何よりも、当主とオレの親父がやれ、と言う
たんや
みんなが、見たいんや、と言うて
事件追いかけながら、引っ越しに式に何にと
飛び回ったオレらは、特に和葉はどんどん細
くなってもうて、オレはオロオロした
でも、めっちゃキレイな和葉を見られて、
そしてみんなに見せる事が出来て嬉しかった
「そんなに、私、普段酷いん?」
「はい??」
「アンタ、いっつも結婚式の日の事引き合い
に出すやろ?」
あー、完全っにあさっての方へ誤解しとると
言うのがわかる
和葉の可愛ええとこやねんけど、一番やっか
いなところやねん
思いこみが激しくて、誤解する時はびっくり
するくらい斜め上を行くねん
「あのな、和葉」
心配せんでも、オマエは可愛ええ
そうや無い、言うやつが居ったら連れて来
い、オレが、しばく
「平次」
嬉しそうな顔すんな、うるうるした瞳をオレ
に向けるな、我慢出来んようになるやろ
取りあえず、両手で顔を挟んでキスをする
ん、もうちょっと、もうちょっと、でかなり
長くなるけど気にしない
車は路肩に停めたし、見つかっても夫婦やか
ら問題は無いしな
オレは多分、和葉が思うてる以上にぞっこん
で、完全に尻に敷かれてると思う
「散々、オレん事煽ったんや、今夜は覚悟し
とけよ」
えー、と言いつつ真っ赤になった和葉に、い
っそ今すぐ夜にならないか、と天を仰ぐ
やいやい言う和葉を宥めながら、車を走らせ
帰宅する帰り途は、穏やかなオレンジ色に照
らされて、キラキラしとった
[2]
**2019年4月某日 ~遠山和葉の記憶**
「かずは、かーずーはーちゃん」
遅刻してまうで、と言いながら、優しい掌が
頭や顔を撫でてくれる
この瞬間がめっちゃ好き
幸せを感じる瞬間だ
あんまりグズグズしとると、しばかれるから
適度な所で目を覚まして、キスをして
ほれ、さっさとシャワー浴び?と言うて、私
を寝室から追い出すと、ベッドを直して、私
が出てくると、私の世話を焼いてくれる
「アンタ、ホンマそう言うところは、変わっ
てへんのやね」
「?」
「世話好きな所?私を甘やかすのが上手いっ
ちゅうか」
ドライヤーをしてもらいながら、出されたコ
ーヒーを飲む私
ちゃっちゃと乾かして、ちゃっちゃとポニテ
を結うてくれるんや
そのうち、化粧までされるんやないか?と思
うくらいやねん
あの再会から、2年が過ぎた
世間一般で言うところの、彼氏彼女のお付き
合いがスタートしてからは、1年と半年くら
いやね
ケンカもするし、あれやけど
仕事もプライベートも充実して、嘘見たいに
楽しく過ごしてんねん
でも、そうなるまでは、それなりに苦労した
し、泣いたりもした
仕方ない
普通じゃない日々を過ごしてきた私らは、や
っぱり10年の間に心にもたくさん傷を作っ
てしもうてて
夜中に飛び起きるなんてしょっちゅうやった
その度に、携帯に入ってる平次との写真見た
り、みんなで撮った写真見たりして乗り越え
たんや
平次と付き合うようになっても、私も平次も
不安定で、幸せやと思うほど、いつかは、と
考え過ぎてしもうて、中々踏み出せへんかっ
たんや
そんな時、平次が提案してくれてん
まずは、キスやハグはけんかしとっても会え
る時は、ちゃんとしようって
そして、2人でのんびり過ごしてみようって
一緒に眠れる日は、どちらかの家で一緒に寝
ようって
まずは、寄り添い過ごす当たり前の日々を一
緒に過ごす事に慣れようやって
そこから先は、いずれ自然とそうなるやろっ
て言ったんや、平次が
私らにはリハビリが必要やって
慰めて、慰められて
抱き締めて、抱き締められて
少しずつ、悪夢に魘される事も減って、平次
に寄り添い過ごす事にも慣れて来た頃、自然
と抱き合い、手を握りあって、結ばれた
大変やったけど、嬉しくて、嬉しくて、幸せ
やと思うた
ホンマに好きなんやって、改めて実感した
し、より一層、平次を好きになって
気がついた時には、平次は暗い部屋でも私が
一緒やったら眠ってくれるようになったし、 私も、目が覚めたら泣き噦ってたなんて事も
無くなったんや
そして、今日、抱き締めあって横になった私
の大事な指には、キラキラした指輪が光る
暗がりに、手を翳して見てる私を抱えながら
平次も私の指を見てた
「迷った甲斐があったわ」
うん、全然こう言うの、期待してへんかった
からビックリした
「は?オマエ、結婚しよ、言うた幼いオレに
言うた事、忘れてんやないか?」
?
「ほな、大きくなって、平次がちゃーんと、
お姫様のティアラと、キラキラの指輪をくれ
たらな」
って言うたんは、オマエ自身やで?と笑う
ティアラは、勘弁してくれ、高過ぎて本物は
買えへんわ
でもなぁ、貸しては貰えるで?
「え?」
この指輪作った店で、結婚指輪買ったら、貸
してくれるらしいねん、と穏やかな笑み
「ほな、写真くらいは撮ろうや!
うわぁ、めっちゃ嬉しい💕」
そんなのん気な事を言うてた私らに、周囲が
慌てた
内輪だけでも、祝わせてって言われてん
まず、お母ちゃんや京極家、降谷夫妻、蘭ち
ゃんら一同に、結婚する事にした、と報告し
たら、みんな文字通り、狂喜乱舞してくれて
「オレらの楽しみを奪うな!」
として、一致団結したみんなが、挙式と内輪
だけの宴席を設けてくれたんや
忙しい合間を縫って、黒羽くんと工藤くんが
幹事になって音頭を取り、大阪、京都、東京
と飛び回り、連携してくれてん
冬の京都で、京極家所縁の神社でのお式が決
まり、その後、近くに在る真氏の私邸で、ごく内輪だけの宴席が設けられる事になるまで
あっと言う間に決まったんや
お衣装も、お母ちゃん、蘭ちゃん、榎本係長
や青子ちゃん、志保さんらが連携して選んで
用意してくれる、言うたから、お願いして
私らは、府警への異動願いを出したり、大阪
の服部邸を改築するために奔走する事になっ
てん
私の28歳の誕生日に、みんなに祝福されて
入籍をした
服部和葉になったのは、あのプロポーズから
僅か1ヶ月にも満たないタイミングで
小雪が舞う京都の神社で、挙式したのは、そ
れから半年もしないタイミングやった
お式は、私からお願いをして、平次がお世話
になった児童養護施設の方々が気軽に来て貰
えるように、一般公開の形で執り行なわれた
どうしても、お礼が言いたかったんや
私の平次を、大事に養育して下さり、ありが
とうございました、って
本人も、めっちゃ頑張ったけど、周囲に恵ま
れたんも事実やと思うたんや
京極家の計らいで、宴席の方にも園のみんな
には参加して貰える事になった
卒園して、頑張ってるみんなにも
白無垢姿にしてもろうて、羽織袴姿の平次と
共に神社に向かうと、観光客の方々にもたく
さん祝福してもろうて、めっちゃ嬉しかった
私は、大滝ハンの奥さんに手を引かれ歩いた
んや
めっちゃかっこええ旦那になった平次は、私
に何度も、何遍も言うてくれた
おおきに、和葉、と
キレイだとはしゃぐ平次に、黒羽くんや降谷
係長から突っ込まれまくったけど
涙が滲むほど、幸せやった
厳粛なお式を終えて、ウエディングドレスに
着替えさせられて、頭には、約束のティアラ
が飾られた
オフショルダーのウエディングドレスは、ク
ラッシックタイプで素敵やった
号泣する大滝ハンと一緒に、即席で用意され
た赤い絨毯の上を歩き、平次の元へと運ばれ
た私
警察官の正装姿の平次と並び、挨拶をした
みんなが居たから、生きて来られました
みんなが居たから、乗り越えてここまで来ま
した
この先も、たくさん色々な事があるでしょう
が、前を向いて、携えた手は違えずに、共に
歩いて行きます
ありがとうの気持ちを込めて
そして、園のみんなへの感謝とエールを込め
言葉も選んだんや
小さな子が、ティアラに目を輝かせるのを見
て、平次が言うた
このお姉ちゃんも、その昔、そんな顔で見て
たんやでって
いつか、私もつけてもらえる?と言うた子に
平次が言う
お友達と仲良くして、一生懸命何でもやって
頑張ったら、夢がかなうかも知れない、と
このお姉ちゃんは、ひとりでも頑張って、頑
張って今日まで来たんや
せやから、このお姉ちゃんが見本であり手本
やで、と言うて
その日は、みんなでワイワイ飲んで食べてお
喋りして、最後は全員で写真も撮り、夢みた
いな時間を過ごしたんや
雪が舞う中の式から数ヶ月後
平次が一生懸命設計した甲斐があって、大阪
の服部邸の改築工事が終わった
新しい年になり、蘭ちゃんが工藤くんのお嫁
さんになるちょっと前に完成したんや
実は、お母ちゃんが遠山家の家屋を取り壊し
更地にしてたんやけど、その土地を優作さん
に売ってたらしいねん
工藤くんはそこに家を建てる事になり、平次
共々、モダン和風な家を建てたんや
「並ぶ家の雰囲気がバラバラやったら、浮く
やろ?」
そう言うて、同じ会社に同時に頼んだらしい
白い壁にこげ茶の飾り格子がええ感じの家が
完成した
服部邸の方が元々敷地も広く、家も大きい
家の改築は、平次の好きなようにさせた
私は、平次と一緒やったら、何でも良かった
から
完成してすぐ、平次に連れられて服部邸に行
った私
玄関には、靴箱が作りつけられていて、広さ
も位置も昔と変わってへんかった
廊下を歩いてすぐにある客間は、洋間に改装
されとって、その奥に、おばちゃんの部屋が
一室あった
広い客間はそのままに、縁側を望めるように
あり、キッチンは、広く大きくなって、客間
を見渡せるようになっていたんや
その奥の二間は、以前はおばちゃんの部屋や
ったんやけど、書斎付きの部屋が2つ並んで
てん
「もしかして、お母ちゃんとおっちゃん?」
「せや、水周りも近いし、中庭も望めるから
丁度ええ感じやろ?」
最初は、オレらの部屋をここにしよ、思うた
んやけどな、と笑う平次
広い客間は、いずれ子供部屋と客間に分ける
事も可能やって言うた
リビングがお母ちゃんらの部屋と客間とダイ
ニングの間にあって、中庭が見渡せて素敵や
なぁ、て思う
お風呂は、広かったし、洗面所も使いやすい
と思うた
「ここからが本番や」
にやり、と嬉しそうに笑うて、私を抱き上げ
階段を上がる
「え、2階にも付けたん?」
あぁ、その方が便利やろ?と笑う平次
そう、1階よりは小さいけれど、お風呂と洗面所が出来ててん
手前の1室は、リビングになってて、1階と
は趣きの違う部屋で、内扉で繋がる隣の部屋
は、寝室で、さらに内扉で繋がる奥の部屋は
書斎になってた
全部2人で使えるようになってたんや
「いっつも和葉と一緒に勉強しとった時、
どうせやったら、机、並べたいなぁ、思うて
たんや」
明るい3部屋は心地よい風も抜けるし、よう
考えられとった
リビングでは寛ぎ、寝室は眠りを重視した作
りになってたし、桜の木で作られた書斎は、
パソコンとかも使いやすいように棚や机が考
えられとったんや
「忙しいオレらが、手入れしやすいように
考えてん」
平次、よう頑張ったな、大事に暮そうな?と
笑うた私を抱き寄せる平次
「アンタ、ホンマによう覚えてたね」
昔、読んだ本に出て来たライティングビュー
ローを、いいなぁ、と言うてた私
それが、寝室の一角にあったんや
それが一番嬉しかった
一生懸命設計したんや、そんな中、私の事も
ちゃんと考えてくれたんやって
「私はめっちゃ幸せもんやね」
ええ旦那に恵まれたわ、と笑うと、オレは
ええ嫁に恵まれたわ、と笑う平次
私らは、写真を撮って、それをお母ちゃんと
おっちゃんに送った
平次がちゃんと2人に言うたんや
部屋、ちゃんと用意したから、と
私と平次で説得して、同居してもらう事に
新婚やのに、と言われたけれど、私と平次は
家族と過ごした時間が少ないから、それで丁
度ええ感じやねん
因みに、お隣の蘭ちゃんらの家とは、裏口付
近の出入り口で行き来出来るようになってた
んや
それに、蘭ちゃん家にたくさんお客さんが来
た時は、うちの客間を解放する約束までしと
ったんよ
「ねえ、和葉ちゃん、私達よりラブラブじゃ
ない?あの2人」
「そうやね、何かあったら、お互い助け合お
うな、蘭ちゃん」
「うん、よろしくね、和葉ちゃん」
そんな話をしたんは、内緒や
数日後、私らは一足早う引越して、服部邸で
暮らし始めた
蘭ちゃんらの、結婚祝いの宴会を、客間を解放してする事になったから
私らと同じように、気心知れた仲間と飲んで
食べて騒げたら、それが一番やって蘭ちゃん
が言うたんや
料理はお母ちゃんの友達のイタリア料理屋さ
んが全面協力してくれる事になって、スタッ
フさんごとうちに泊まり込んで仕込みから何
からやってくれる事になって
春の陽気が心地よい季節、工藤くんと蘭ちゃ
んも、ひとつの節目を迎えたんや
中庭にも広げた宴席は、満員御礼やったけど
みんな楽しそうな笑い声に包まれて、揺れる
桜や葉っぱも美しい、ええ感じの時間が流れ
蘭ちゃんは、とても美しい花嫁さんになった
この街に、この場所に、いつか帰りたいと願
うてたんやけど、こんな幸せな形で帰れると
は思うてなかった私
実現出来たんは、平次が色々なことを乗り越
えてくれたからや
「平次、ホンマにおおきに」
「?」
感謝しとんのやったら、行動で示してくれた
らええのに、と言う平次に背伸びをしてキス
をした
煽るな、アホ、と言う平次に
煽ってるんや、ええやんか、と返した私
んなっ、と言うて真っ赤になった優しい旦那
に手を回して、しっかりと抱きついてキスを
した
ご馳走さま、とおばちゃんの声が聞こえたよ
うな気がしていた
大事に、大事にしますよって、よろしゅうな
おばちゃん
そう呟きながら、愛しい旦那からの濃厚なキ
スを受け止めていた私やった
最終章後編へ、
to be continued
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