You're all surrounded [第8章−後編]
第8章 Requiem・後編
[3]
**2017年8月某日 ~降谷零の記憶**
池波ホールディングス株主総会が開催されて
いる最中に、会長と副社長が逮捕されると言
う異例の事態になった
でも、株主総会で、会長と副社長の横領の事
実が社長である平蔵氏自らの数年に渡る調査
により判明した、とあって、総会で会長と副
社長の解任が決議されていたのだ
それだけではなく、社員持ち株制度の開始や
改革案が打ち出され、平蔵氏は、息子の春人
氏と共に、持ち株を放出手続きを取ったのだ
春人氏は、祖父と実母の犯罪に気が付いてい
たものの、何も言えずにいたらしい
「父さん、いままでありがとう」
平蔵氏に、そう言って、自分が最近母親から
譲られた株も全額、父親に一任したのだ
「オレ、父さんの子じゃ無いんだ」
「え?」
成人した時、彼女と一緒に献血に行って、初
めて自分の血液型が母親に教えられていたも
のとは違う事に気がついたと言う
「母さんのやった事は許されないけど、父さ
んだって、最後まで貫き通さなかった罪はあ
ると思う」
だから、コレで許してくれ、と言った
「オマエは、20年ワシが育てて来たんだ
血がどうこう、言うよりも、息子である事に
は代わりは無い」
「ありがとう、父さん
でも、オレ、オレはオレで生きて行くよ
彼女と一緒に渡米する
デザインの勉強、して来たいんだ」
いつか、彼女とブランドを立ち上げるからさ
見守っててよ
そう言って、祖父と母の逮捕後、面会もせず
に彼女と籍を入れて飛び立って行ったらしい
「それが、自分なりの祖父と母へ与える、自
分からの罰だって言ってました」
約束通り、株主総会の終わったその足で庁舎
に遠山と服部を訪ねて来た平蔵氏が教えてく
れたのだ
「平次くんが、本当に私の子であるならば、
私は彼に対して責任がある」
DNA鑑定を受けたい、と申し出た平蔵氏を
服部は拒否した
オレの父親は、遠山銀司郎だって事でいい
そう言って、部屋を飛び出してしまったのだ
そんな平蔵氏に、遠山が差し出した
以前、オレが英治と平次を同一人物だと特定
したあの鑑定結果とあわせて、あるモノを出
したのだ
「平次の指紋と、池波さんの指紋には特徴があるんです」
実は、内緒でDNA鑑定も何も済ませてあっ
て、自分はその結果を知っています、と
「歩き方のクセ、指紋、身体的特徴、血だけ
ではなく、あらゆるものが、父子だと証明し
ています」
「では、やはり?」
そう言う平蔵氏に、頷いた遠山
「お時間、頂けませんか?」
平次にも、リハビリする時間が必要やと思う
んです
色々な事が一気に動いてしもうて、まだこれ
から裁判やら何やら、超えて行かなアカン事
もたくさんあって、と
「平次の事は、いずれ私が説得します
でも、今は、そっとしておいてあげてくれま
せんか?」
そう言った遠山に、わかった、いつでも来て
下さい、と言い残して、平蔵氏は帰って行き
遠山に、たまに話相手になってもらいたい、
と言っていた
「もちろんや、楽しみにしとってや?おっち
ゃん」
そう言った遠山に、笑顔を見せて帰って行っ
た平蔵氏は、その後、獄中に居る瑠花氏との
離婚を発表し、もう一度会社を立て直した後
は、後進にその座を譲るとして、期限付きで
仕事に復帰した
工藤夫妻によれば、春人氏は、向こうで自力
で人脈づくりからパートナーと共に積極的に
動き回って、学校も熱心に通っているとの事
オレと梓は、事件の後始末と、遠山と服部へ
の懲罰回避に飛び回っていた
そんな中、大阪から大滝本部長と、遠山科捜
研所長が揃って訪れたのだ
人材交流をお願い出来ないか、と言う事だ
「お察しの通り、府警は現在大変な過渡期に
あります」
特に刑事課が大ダメージを受けているらしく
て、刑事達の疲労はピークに達していると
後輩指導の出来る刑事を数名、遠征願えない
かと言う話しだった
そして、遠山所長は
「そろそろ、青子ちゃんを帰さないと、黒羽くんに悪い、思うてね」
誰か、研究員を紹介してくれないか、と言う事だったのだ
そうは言っても警視庁も一課長の逝去と言う
だけではなく、上層部の刷新人事も敢行され
る程、揺れていた
「人選はお任せします」
と言う2人に、後日今度はこちらから出向き
ます、と約束した
「大滝ハン!お母ちゃん!」
捜査から戻って来た遠山と服部
遠山が、2人に飛び付くと、嬉しそうな顔を
した2人
「いやぁ、平ちゃん、ようやったな!」
「やっぱり、平ちゃん、男前やー!」
おばちゃん、と嬉しそうな顔をした服部を見
るなり、飛びついて頬にキスした遠山所長
冴島と沖田は苦笑して冷静に受け止めてる
「オレ達も、やられたもんな」
「え?」
宴会の席で、服部と同じような目に遭った
と笑う2人も、イケメンめっけ💕と言われて
同じ目にあっていた
「今日は、うちでどうぞ」
宮野所長が現れて、大滝さんも、遠山所長もぜひ、と自宅マンションへ招いた
結局、6係の工藤、毛利、黒羽も声がかかり
大所帯で宮野所長の家に行き、宴会をする事
になった
「こんな大人数、初めてじゃない?」
「そうだな」
差し入れ、何にするかなぁ、と悩むオレと梓は、みんなより少し早めにうかがって、手伝
う事にした
「お姉ちゃんの骨、本人の希望通りの街に眠
らせようと思って、今夜でお別れなの」
賑やかに送ってあげたいから、と言う志保さ
んに、OK任せて、と言ったオレは、梓と2人
今日、サプライズで発表をする事にした
到着すると、遠山、冴島、宮野、毛利でキッ
チンはフル稼働していて、沖田と工藤、そし
て黒羽が遠山所長と大滝本部長の接待に忙し
くしていた
「おい、服部は?」
「平次はこれから来ますよって」
?
「なぁ、梓」
零さんも、気が付いた?と笑う梓に、オレは
その予感が当たれば良いと願った
服部が、ゲストを伴って現れた
一人は、冴島の親父でもある医療法人華櫻会
の会長
そして、もう一人は、池波ホールディングス
現会長だ
「院長先生!」「平蔵さん!」
遠山所長は再会を喜んだが
冴島は、ワケがわからないと言う顔をした
「え、このイケメン冴島くん、院長の息子さ
んなんですか?知らんかったわぁ!」
和葉、取り上げてもろうたんですよ?
こっちの平次くんもそうやねん
「え、あの時の風来坊の先生??」
遠山の事も、服部の事も、生まれたその日に抱っこしたと言う大滝本部長は仰天した
「冴島くんのお父さんにはな、和葉を産んだ
日と、この間の新幹線の事件の時と、2回も命を助けてもろうてん」
とってもお世話になったんや
私も、静華も
そう言うと、遠山所長は艶やかな笑顔を見せ
「そうなんですよ、平蔵さん」
と言った
絶句する平蔵氏だったが、冴島院長に向き直
ると、頭を下げた
「いやいや、医師として、すべきことをした
までや」
そう言って笑う院長に、宮野所長も頭を下げ
て言った
姉を、最後まで丁寧に見てもらって、本当に
ありがとうございました、と
「親父」
「跡を無理に継がなくていい
オマエは、オマエにしか出来ん道で、医学を
捨てずに邁進したら、それでええ」
病院の後始末はオレがする、と言う父親に、
冴島は頭を下げた
たまには母さんに顔を見せてやれ、と言う父
に、はい、と言った
それを見ていた遠山所長が、手帳から写真を
取り出して、平蔵氏に差し出した
平蔵氏と寄り添い、笑顔を見せる静華氏の在
りし日の写真
そして、生まれたばかりの服部を抱く母とそのベットによじのぼり、服部の手を掴む遠山
そして遠山所長が映る写真
その後に起きる事など、想像もしていない、
穏やかな幸せな笑みに包まれて写真だ
「うわっ、服部、可愛いな
ってか、和葉ちゃん、マジで天使みたい!」
工藤の声に、騒ぐ面々
愛おしそうに、その写真を眺めていた平蔵氏
の目から涙が落ちる
「この写真を撮った翌朝やった」
とても、幸せな気持ちで目覚めた朝、そこに
はもう、静華氏は居なかった、と
これを最後にします、いままでありがとう
仕事を大事に、必ず成功させてみせますと書
き置いてあったと言う
それ以降は、電話もつなげられなかったし、
面会も一切を拒否されたと
そうこうしている間に、帰国したと知った瑠
花氏が、平蔵氏の実家を罠にはめ、どうしよ
うも無い状況下にされた、と
「結婚が回避出来ないと判った時、ワシは密
かにある手術を受けてたんや」
「まさか」
そう言ったオレに頷いた
子供が出来ないよう、自ら手を打ったと
それなのに、結婚3年が過ぎて、何故か夫人
は懐妊した
そう、始めから、平蔵氏は春人が実子では無
い事をわかった上で、養育していたのだ
「子供に罪は無い」
自分が出来なかった分、春人には自由にさせ
ようと決めていた、と
「愛したオンナが、どんな大変な目に遭った
かも知らず、大事な子供、産んでくれてた事
さえ知らず」
その罪は、これから自分自身で償って行くつ
もりでいる、と言った
「和美さんにも、和葉ちゃんにも、銀司郎に
も、申し訳無い事を」
「そんなん、別にええよ、おっちゃん
私も、お母ちゃんも、平次を返して貰えてん
から、それでもうええんや」
「そうやで、平ちゃんを、ちゃんと静華の元へ返してあげられた、せやからもう、それで
ええねん」
さ、みんなコレでしまい、や
一課長が、自分の生命を賭けて拓いてくれた未来を、みんながちゃんと生きてったらええ
ねん、せやろ、志保ちゃん
遠山所長がそう言うと、宮野所長が言った
「私、次の人事異動で、大阪に行きます」
「「えええっ!!!」」
「遠山所長と一緒に、共同研究したい事項が
あって、漸くその申請が通ったんです」
「志保ちゃんを借りる代わりに、黒羽くん、
良かったなぁ、青子ちゃんは東京にお返ししてあげます」
ホンマはそのまま、貰いたいんやけど、と言
う所長に、黒羽は抱きついて感謝した
「青子ちゃんに、所長代理をお願いして、私
は取りあえず2年、大阪に」
サプライズに、一気に沸いた席で、オレ達か
らも、と言った
「昨日、籍を戻して来ました」
「「ええええっ!!」」
仕事上、そのまま旧姓で通すと言う梓
オレ達は、ある事も決めていた
「オレは、次の人事異動で、大阪府警に行く
事になった」
7係は風見を係長にしてそのまま存続、と言
うと、さらにどよめく
「ええんですか?ホンマに」
大滝本部長がそう言うので、言った
遠山を刑事として育てた府警を信じていると
そこを立て直し、いずれそこに帰ると言う遠
山の場所をちゃんと正すのが、オレなりの贖
罪だ、と
「榎本係長は?」
「え?今まで通りよ」
「再婚して、いきなり遠距離?
やめといた方がいいんじゃない?大丈夫?」
真面目に心配する志保さんに言った
君の姉さんに頼まれた事を実行するだけだ
後進育成と、君の幸せを見届ける事
「オレと梓は、もう大丈夫だ
ま、いずれ落ち着いたら空の兄弟も作る予定
だからな」
「零さんっ!!」
「若いなー、降谷くん
でも、いいね、その考え
よし、一緒に大阪、行こう!」
どうぞよろしく、と遠山所長にオレまで頬に
キスされて、平謝りする遠山と、けらけら笑
う梓に、賑やかな宴会はさらに進んで行った
[4]
**2017年8月某日 ~榎本梓の記憶
事件後、大阪に行くと言う決断をした零さん
は言う
本当は、遠山と服部を最初は帰そうと思った
んだけど、服部はまだ、あの街には足を運ぶ
事は出来ないみたいなんだ、と
時期尚早、と判断したと
「梓と風見に託して行くよ
服部と遠山を、2年後には、どこでも、バラ
でも活躍出来るようにしてくれ」
もちろん、沖田と冴島もな、と笑った
「了解」
「後、東京のオレの家は閉めるから」
「え?」
「えって何だよ
当たり前だろ?単身赴任の上に、別居って、
意味わかんない💢」
「あ、そう言う事ね」
あず、自覚なさ過ぎだよ、と言われた
零さんは、私の家族に頭を下げて、今度は、
私がどんなワガママを言っても、死ぬまで離
婚はしません、と宣誓したのだ
証拠の書類にもサインして、その書類は両親
が保管することになった
風見さんは、自分も大阪にと言ったが、零さ
んがそれを断った
産まれたばかりの子供と嫁さんのこと考えて
やれ、と言って
「後、アイツらの事、ちゃんと育てる約束な
んだよ、宮野さんとの」
だから梓と一緒に、頼む、風見と言ったのだ
わかりました、と言った風見くんに、零さん
は嬉しそうな顔をした
その後、零さんは早々に家を引き払うと、私
の家で生活するようになり、私達は、一緒に
大阪での零さんの家を探してみたりと忙しい
日々を過ごすようになった
なぁ、梓
ん?
夜、2人でコーヒーを飲んでいると、零さん
が言った
ところで、オレ達、何かとても大事な事、忘
れてる気がしないか?
そうねぇ、何だっけ?
その大事な事は、その後、思い出す事になっ
たのだ
「係長!オレの合コン、どーなってるんですか!💢」
沖田に言われて思い出す私達
零さんは、東京で、私は関西で開催しなけれ
ばならない
先日、冴島が主催した看護師との合コンは、
結局、沖田が良いと思った子が、冴島狙いで
全然相手にされなかったらしい
「零さんは、アテあるの?」
「いや、適当に、と思っていて」
「じゃあ、私の方を、先にするわ」
沖田を連れ出して、ガチの合コンに行ったの
は、それから数日後の事だった
ま、沖田に言わせると、アレはガチの合コン
やなくて、見合い、言うんじゃー💢、らし
いけどね💕
コレには、ちゃんとワケがある
沖田の両親から頼まれていたのだ
可愛いらしい幼なじみの許嫁がいるのだが、
息子が意地になっているみたいだから、2人で一度ちゃんと話し合う時間を持たせたいと
お相手にも、そう伝えてある、と
だから、仕組んだ
「で、どうすることにしたの?リリース、す
るの?」
「するワケ無いやろが💢
あんなええオンナ、ほいほいいるワケないや
んか」
あらら?
いずれちゃんと話す、今は放っておけや、と言う横顔は、真剣だった
最終章へ、
to be continued
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