You're all surrounded [第7章−後編]
第7章 訪れる過去・後編
[3]
**2017年8月某日 ~降谷零の記憶**
オレ達が、チームになって捜査した途端に、
相手方が一気に動き出した
最初に、冴島が襲われて、証拠品であるペン
ダントを奪われた
でも、奪われたペンダントには2重に仕掛け
を遠山が施していたんだ
本物そっくりの偽物を作っていたのだ
奪われてしまったのは本物だけれども、精巧
に作られた偽物は、素材も、本物と同じモノ
で作られているので、素人には見分けがつか
ないクオリティだった
オレはそれを代理で受け取りに行くため、郊
外の店まで足を延ばしていた
製作を依頼したのは、黒羽の古い知り合いの
老人で、昔から手先が器用で、手品の道具を
作って来た人だと言う
「万が一に備えて、予備も作りましたので、
2つ、お持ちください」
代金は、既に黒羽経由でいただいたので不要
とされた
それを手に、梓と合流して帰ろうとしたオレ
に、遠山から電話が入ったのだ
一課長の様子がおかしいので、服部と一緒に
追跡を開始する、と
急ぎ、梓にも連絡を入れて、オレは途中で
梓を拾って急ぎ遠山の流す映像の後を追った
「んなっ!!!!」
激しく急ブレーキをかけた遠山達の車は派手
にスピンした様子
それでも、事故現場近くまで車が移動すると
遠山と服部が煙がくすぶる中に飛び込んで行
く背中が見えた
オレは愛車のギアを入れ直して、先を急いだ
梓は、真っ青な顔で、映像を見守っていた
遠山からの連絡で、搬送先の病院へと駆け付
けた
「遠山!服部!」
現在、冴島が入院している病院だった
手術室前で、立ち尽くす2人が居た
遠山も服部も血だらけで、顔にもついていた
その血を、梓が拭ってやった
「出来る事は総てしましたが、予断は許さな
い状況です」
駆け付けた志保さんは、ショックを受けなが
らも気丈にふるまった
服部に、先日、姉が話してくれた、として、
以前、支援していた男の子は、服部平次であ
る事と、鳥蓮英治と同一人物である事、そし
て、遠山和葉は恩人の娘だと言う事を知らさ
れた、と話した
「姉が、何をしたかはわからない
でも、きっと、警察官としてとってはならな
い行動をしたと思う」
本当に、申し訳ございませんでした、と、頭
を深く下げたのだ
「謝られるような事は、何もされてへん」
むしろ、助けてもろうてばかりやったし、と
言う遠山と、服部に宥められても、俯いてい
た志保さん
集中治療室に入ったオレ達は、機械に繋がれ
動かない一課長に絶句した
泣きながら、傍に居る志保さんに、一課長を
託して、オレ達は部屋を出た
「アカン、一課長の家が危ない」
服部のその声に、オレ達4人は、志保さんが
遠山と暮らすマンションと、そのマンション
を出てから一課長が暮らしていたマンション
へと急いだ
幸い、まだ誰にも踏み込まれていなかった志
保さんが遠山と暮らすマンションとは違い、
服部達が踏み込んだ、現在一課長が暮らして
いたマンションは、荒らされつくしていた
捜査一課は、上へ下へと大騒動になった
現役の一課長が、事故に遭ったのだ
それも、部下の目の前で
一課長代理になったのは、宮野一課長から、
事前に打診を受けていたと言う人物だった
「数週間前から、急に、もしもの時はって
言い始めて、縁起でもないって言ったんだけ
どね」
それでも、引かなかったらしい
仕方がないので、それで一課長の気持ちが済
むなら、ときいていただけなのに、と困惑し
ていた
そして、一課長のデスクから出て来たと言い
オレと梓に宛てた手紙を渡された
未開封のそれは、彼が臨時で一課長代理に就
任し、着任した直後に現れた監察からは隠し
たので、渡したら自分は忘れる、と言った
「ありがとうございます」
礼を述べて、オレはそれを持って梓と共に会
議室へと入った
----------------------------------------
降谷零様
梓様
この手紙が、貴方達の手に渡ると言う事は
私の身に何かがあった、と言う事でしょう
総ての未来は、貴方達に託します
そのための準備は出来たと確信しています
現場の刑事達が、絶望しないような世界を
実現させるのは、もはや私ではなく、次の
世代の刑事達だと思うようになりました
たった13歳で、総てを奪われた少年と
たった15歳で、愛する家族との生活を捨て
ゴールの見えない捜査に総てを託して生き
て来た少女を生み出してしまったのは、
私達大人のエゴだと、現在ならそう認められ
る気がします
未来の子供達の平温な生活を護るために、私
達は一体何が出来るのか
一生懸命考えて、自分なりに信念も覚悟も持
って行動してきた事が、間違っていたと言う
事を知った時から、私の進むべき道はひとつ
でした
志保には、私と同じ道を歩ませないために
何一つ報せていません
両親が、海外で起きたテロで亡くなった事も
志保は知りません
飛行機事故で亡くなった、としか伝えていな
いからです
そして、その事は、この先も告げるつもりは
ありません
志保には、ごく普通のひとりの人として幸せ
になって欲しいと、切に願っています
また、平次くんには、本当に、本当に申し訳
ない事をしました
連中よりも先に、彼の生存を知ることが出来
た時は、本当にほっとしましたが
周囲の人の助けを得て、ひたむきに生きる姿
を見た時、自分の犯した取り返しのつかない
過ちに気付いて、涙が止まりませんでした
最初は、連中の目から、彼の姿を隠すため、
そして、最悪の時は、切り札として交渉のカ
ードに出すために、平次くんの支援をして来
ました
でも、何だかんだとやり取りをするうちに、
本当の弟のように、息子のように思うように
なりました
そして、何とか彼を護らなくては、と思うよ
うになったのです
彼を護るために、万が一、自分に何かあった
場合でも護りきるための人を、時間をかけて
選び抜きました
降谷夫妻、遠山刑事を強引に引き入れたのは
彼を託すのに、最適だと判断したからです
冴島くんや沖田くん、工藤くんや毛利さん
そして、黒羽くん
彼らを選んだのは、その能力の高さもありま
したが、人として、人格を重んじて選抜した
次第です
「他人の痛みを真に理解出来る人」
その点において、みんなそれぞれ非常に高い
ポテンシャルを発揮していたからこそ、選ん
だメンバーでした
我ながら、最強のメンバーを揃えられたと、
自負しています
願わくは、私がいなくなっても、志保にとっ
ても良いお手本になる人達として、志保の傍
に仲間として居て欲しいメンバーです
厚かましい願いだと言う事は、十分に理解し
ています
だから、その代わり、私が相手にしている
連中は、必ず道連れにして、この世を去りま
すので、何卒よろしくお願いします
宮野明美
----------------------------------------
一課長の手紙には、ペンダントが同封されて
いた
「このデザイン」
モチーフは違うが、先日奪われたペンダント
と、デザインが似ている気がした
至急、志保さんとコンタクトを取った
志保さんが、バックから取り出して見せてく
れた
「私も、良くわからないんだけど、コレは
姉が10歳の時に、学校で行われた1/2成人式
を記念して、父親が作ったみたいなの」
母が生まれた記念にと妹の私の分も一緒に、
注文していたみたいで
どこで作られたのかはわからない、と言う
「ずっとお守りとして持っていたの
私、首周りに金属を身につけられない体質み
たいで、ネックレスとかペンダントは出来な
いみたいだから」
確かに、志保さんのものはキーチェーンの加
工がされていた
写真を撮らせてもらって、指紋採取とかをお願いして、オレ達は一端庁舎に戻った
「降谷係長、入院中の冴島が有力な情報を掴
んでくれましたよ」
インターネットオークションに、あの奪われ
たネックレスの写真をUPして、マニアにそ
の価値を問い合わせたと言うのだ
反響があった中から、有力そうな情報に絞り
込んで、リストアップしたのを、沖田がひと
つずつ潰して歩いたらしい
「遠山も言ってたでしょ?
相方がやられたのに、パートナーである自分
が逮捕しなくてどうするって」
茶目っ気たっぷりにそう言った沖田だったが
瞳に宿された犯人に対する怒りの炎は消せて
はいなかった
アーネストと言う名前で、オートクチュール
の世界で活躍するデザイナーの作だと判った
のだった
そして、ちょうど個展を開くために、東京に
滞在中で、数日後には、居住するフランスに
帰ってしまうとわかった
大至急、コンタクトをとって、オレと梓で面
会した
写真を見て、自分の作品だと教えてくれた
これは、30数年前、自身のコレクションが
ヒットした記念に、限定1000個だけ受け付
けたオーダー品だと
依頼者の名前をモチーフに、イメージを膨ら
ませて製作したシリーズらしい
顧客名簿は本国で保管しているため、至急、
スタッフに言って転送してくれると言う約束
してくれて、面会を終えた
「だからか」
池波瑠花は、花を
宮野明美は、太陽と月を
宮野志保は、星を
同じ素材でモチーフ違いのそれが作られていたのだ
しかも、作家自身はそれもデザイン画に対し
て1点しか製作していない
コピーがあるとするならば、相当腕のある人
物が仕上げたと言う事だ
オレと梓は、そのコピーの行方を追うのと同
時に、ダメ元で脅しをかける事にした
遠山と黒羽、梓に周囲を張らせた状態で、池
波瑠花への面会を申し出たのだ
拒否されると思ったのに、意外にもあっさり
と邸内に招かれた
「申し訳ございません、ある殺人事件の捜査
過程で発見されたモノが、池波様のモノでは
ないか、と言う話が出たモノで」
オレがテーブルの上に置いたビニールに入っ
たペンダントを見て、一瞬ぎょっとした顔を
した瑠花
それよりも、オレが伴った服部をじっと睨み
つけるようにしていたのが驚きだった
「オレの顔に何か?」
にこっと愛想良く笑った服部に、瑠花は心底
嫌そうな顔をした
「で、このペンダントが私とどんな関係があ
ると?」
「おや、それはおかしいですね
こちらは、デザイナーさん本人にも確認しま
したが、池波様の10歳のお誕生日祝いで、
あなたのお母様が特別に依頼されて製作され
たモノだとうかがっています」
デザイナーから転送されてきたデザイン画と
依頼主の描いたオーダーシート、添えられた
池波ホールディングスの名刺のコピーを差し
出すと、不愉快極まりない顔を一瞬だけ見せ
すぐに作り笑顔になった
「あぁ、すっかり忘れておりました
そうです、母から頂いたペンダントでした」
でも、おかしいですねぇ、と優雅に笑う
私のモノは、手元にありますわよ、と
「そうなんですね?では、どちらかが偽物と
言うか、コピーだと言う事ですね」
「えぇ、そのようね」
「ほな、申し訳無いけど、事件解決のために
は、このペンダントの真贋をはっきりさせな
アカンねん」
せやから、お宅に在る、と言うペンダントを
任意で提出、してもらえへんやろか?
服部のその声に、それは出来ませんっと強い
抗議の声を上げた
服部は、それを受け流して迫った
「拒否する、言うなら、要らん容疑があなた
にかかるだけやけど、ええんか?」
ちなみに、このペンダントは、もう検査が終
わってんのや
そう言うと、テーブルの上に、科捜研の調査
結果を開いた
プラチナとダイヤの品質保証に加えて、特殊
なナイフで彫り込まれた品である事も明記さ
れたモノだ
そんなバカな、と小さく呟いたのを、オレも
服部も聞き逃さなかった
「何が、そんなバカな、なんです?」
畳みかける服部に、軽蔑するような眼をして
言った
ここに、私が所有しているモノが本物に決ま
っているでしょうが、と
「ですから、それが本物である、と証明する
ためにも、ご協力いただけませんか、とお願
いにうかがった次第です、奥様」
オレの言葉に、我に返った彼女は、大事なモ
ノなので、それは出来ません、と言った
「さっきはそんなん知らん、言うてたのに、
ずいぶんコロコロと変わりますなぁ」
「ここで、そちらをご提出いただくのと、そ
れを持って、庁舎の方へ来ていただくのと、
どちらがよろしいでしょう?」
「殺人事件の現場にあったんや
いくらおばさんが金持ちやからって、簡単に
もみ消されるワケ無いやろ」
いつの時代や思うてん、と服部がわざと悪態
をついて、煽った
「一体、どう言う教育をしてるのっ!!
お父様がいらした頃は、こんな野蛮な方はいらっしゃいませんでしたよ!!」
「申し訳ありません、オレも事件解決するた
めやったら、必死なんです
死んだ被害者の無念を思うと」
せやから、堪忍してください
急に殊勝な態度に出た服部は、何だかんだ言
いつつ、池波瑠花を刺激した
持ちあげて慇懃無礼な態度で褒め倒したり
面会当初は鷹揚として、上から目線だった瑠
花も、面会の最後は、ひどくやつれた顔をし
ていた
どんなに若づくりをしても、年齢を重ねる事
は誰も避けては通れない
雑誌等では、実年齢よりも-20歳は若く見え
ると持ちあげられていたが、仮面を剥がせば
年齢相応の女性だった
若かりし頃は、美しく我儘なお嬢様だったの
だろうが、現在は、ヒステリックなおばさま
といったところが本性だろう
結局、任意提出を受けたそれを預かり、オレ
達は邸を後にした
オレはそれを科捜研に提出に行き、服部はこ
れから次の対峙へと向かった
池波平蔵氏との面会、だ
工藤有希子氏から提供された写真を持って、
直接本人と逢わせてみる事にしたのだ
遠山は、そんな服部を支えるべく、面会場所の近くで待機しながら、情報分析を続けてい
る
一課長の容体を心配して、みんながそれぞれ
の領域で全力で捜査を進めていた
服部と、一課長の時間を少しでも残してやろ
うと必死だったのだ
[4]
**2017年8月某日 ~榎本梓の記憶**
「ねぇ、誰か、教えてやったら?
車内の会話、丸聞こえですよーって」
志保ちゃんが、本当にあの2人はしょうがな
いなーと苦笑した
「ばっちり、通録撮りました💕」
工藤の声に、零さんが頭を抱えた
「毛利、悪いけど宮野所長を送って行っても
らえるか?」
「はい」
「後で迎えに行くから💕」
ちゃっかりそう言った工藤には、拳骨がおみ
まいされた
「まぁ、元気で良かったわ」
「でも、服部は苦労しそうだな」
「あら、意外と遠山だって苦労してるわよ
きっとね」
「え?」
「多分、わざと気が付かない振りしてるんだ
と思うわ」
服部が、落ち込まないように、悪い方向へと
考えを巡らせないようにってね
「そうかな」
そう言って笑った零さんが、水筒を差し出し
て来た
「マンダリン?」
「正解」
廊下が騒がしいな、と思うと2つの影が姿を
見せた
「すいませーん、僕にもひとつ、美味しいの
が欲しいです!」
「オレの合コンの約束、忘れないでくださいよー!」
黒羽と沖田の2人だった
「ねぇ、沖田、合コンって何の話?」
後ろで、黒羽達のためにコーヒーを淹れてい
る零さんがずっこけたのを感じていたけれ
ど、そのまま笑顔で聞いた
まぁ、事情を知らない沖田は、喋る喋る
止めに入ろうとした零さんを私がおしのけて
沖田は仲裁しようとした黒羽をおしのけて
ぜーんぶ、聞いてしまった
「なんだ、沖田だったら顔もいいし、婦警さ
ん、たくさん集まりそうなのになー」
「えっ、榎本係長もセッティング、してくれるんですか!ぜひっ」
素直と言えば、素直
鈍いと言えば、鈍い沖田をからかって、でも
ちょっとあてはあったりして、零さんが東京
で開催するなら、私は関西で開催してあげよ
うと企む
「梓、まさか沖田の事、真に受けてるんじゃ
ないよね」
「何の話?
私はいつだって、真剣よ?」
あずーとダダをこねる零さんに、仕事しろと
説教して、キスだけして自分の仕事に戻った
宮野一課長の容体は、一進一退を繰り返し、
意識は取り戻さないままだった
仕事の合間を縫って、詰めている志保ちゃん
に、差し入れをして、一緒に枕元でお喋りし
て時間を過ごす
やがて、やって来た服部と交代して、私は志
保ちゃんを遠山と暮らすマンションへと送り
届ける
これが最近の私たちの日常になりつつあった
遠山は、一課長の病室には日中に行く
夜は絶対に行かない
「平次にな、目いっぱい喋らせてやりたいね
ん、誰にも気にせず、好きな事を」
きっと、自分の知らん一課長との想い出がた
くさんあるはずやから、と言った遠山に、私
と志保ちゃんは賛同したのだ
私は、遠山の部屋を借りて寝起きして、志保
ちゃんをひとりにしないようにしていた
これは、零さんからのお願いだったのだ
零さんと、服部のペアでの作戦の効果が出た
任意提出されたペンダントから、検出されな
いはずの指紋が検出されたのだ
遠山、服部、私、零さん、冴島、沖田、黒羽
工藤、毛利、全員の指紋と、そして遠山が検
出していた、科学室の薬品、更に既に逮捕、
送検されている原田の指紋だ
それを証拠として、池波瑠花への逮捕状請求
の準備が着々と進行していた
そのタイミングで、新たなアクシデントが発
生した
念のため、として細工をしていたその証拠物
件が、庁舎内で紛失したのだ
最初から、それを想定して、レプリカを保管
していた私達だけれども、消えたそれを本物
として、捜しまわった
「いいか、コレは本気も本気、大人の借り物
競争、いや、カクレンボだと思え
優勝者には、きっと褒美がある!」
黒羽が、みんなにそう言って、真剣に知恵を
絞って犯人を追え、と言ったのだ
だから、事情を知らない他の刑事達も、犯人
捜しにギスギスすると言うよりは、その褒美
欲しさに真剣に捜し始めた
「こういうところ、尊敬するよ」
「本当ね、遊ばせたらきっと世界一遊び上手
な人になるわよ」
「少し、仕事、させとかなくちゃダメだな、
黒羽は」
「そうね」
「沖田は、ガス抜きさせてやらないとな」
「そうね、冴島が大病院の跡取り息子だって
知って、拗ねてたもんねー
可愛い看護師さんと遊びたい放題じゃんって
言って」
「本当、アイツはそっち方面、アホで困るん
だよなぁ」
「でも、大丈夫、良い子と出逢わせる予定で
居るから」
「え?」
私は、零さんにこっそり耳打ちした
「お話があります」
そう言う遠山に、打ち明けられた
アクシデントで、池波春人と出逢ってしまっ
てから、付きまとわれている、と
「事件関係者や無かったら、ぶっ飛ばして、
突き出してやればええんやけど」
工藤くん達が内偵しとる相手やし、と言う
服部には、絶対に報せるな、と言う遠山に、
私と零さんも困り果てた
遠山は無自覚だけど、服部の方は、はっきり
きっぱり自覚あり、で、事件さえ片付けば、
間違い無く、遠山をモノにする気だ
ら
ぞっこん、ってこう言う事を言うのよねと零
さんと2人、行く末を楽しみにしているんだ
けど
服部は、若いと言うか、本当に遠山が良くて
仕方が無いみたいで、彼女に色目を使う男た
ちを蹴散らして歩くのだ
本人は、そんなんしてませんー、と窘めると
そう言うんだけど、睨まれた男達からは、も
のすごいクレームが来るのだ
私と零さんのところに
何であの若造だけが姫を独占するんだと
どうも、裏では遠山のファンクラブもあるら
しく、服部のファンクラブに負けないくらい
熱いらしいのだ
「そいつらに、姫がストーカーされているな
んてバレたら、捜査はパーになるぜ?」
慌てた零さんは、恐ろしい手を打った
工藤を呼び出し、オマエはいつまでその事件
を追う気だと説教したのだ
それも、同じくファンクラブがある毛利を人
質にして
「遠山に何かあったら、オマエは服部に殺さ
れるのは間違いない」
それよりも、毛利からの信頼も無くすぞ?オ
マエだったら、上手い事チームで事件を早期
解決へ導く方法、いくらでも思いつくはずだ
何せ、オマエの手には、毛利の未来がかかっ
ているからな
もし、彼女の父親に結婚を反対されるのな
ら、説得に協力する、と言ったのだ
(うわー、零さん、怖い)
それが効いたのか、工藤の暗躍で、薬物事件
の方は、麻取と連携で、凄い大量の逮捕者を
出して事件解決となった
池波春人は、無罪放免になった
「身体に悪いの、何で自分から入れるの?
気持ちよくなるのは、自分でやらなくちゃ楽
しみも気持ち良さも無いじゃん」
そう笑っていたらしい
薬物反応も無く、逮捕拘束する理由が無いと
なったのだが
工藤がどんな脅しをかけたのかは不明だが
遠山への付きまといは止まった様子
「ありがとうございました!」
めっちゃ助かりました!と喜ぶ遠山に、まさ
か工藤を脅したとも言えず、笑うだけの私達
そんな中、国内外を飛び回っていた風見くん
が帰還した
「いやーもう、僕ひとりで泣こうかと思いま
したよ」
アジア各国を飛び回り、池波ホールディング
スにかかわる情報を回収して来てもらってい
たのだ
「何か出たか?」
「手ぶらで帰国するほど、落ちぶれてません
から」
池波ホールディングスは、現在の平蔵社長に
代わるまでは、あの瑠花夫人が舵取りをして
いたみたいです
「?では、国会議員になる前のあの先生は
何をしてたの?」
「不明です
と言うよりも、名前だけのお飾り社長だった
みたいですよ?」
株も、娘と娘婿、その子供の方が多く所有し
ていますし、海外の口座を調べても議員の自
由になる資金は、比べ物にならないくらいの
額、と言っても民間の我々よりは持っている
みたいですけどね、と風見くん
「つまり、池波家の資産の殆どは、あの瑠花
が牛耳ってると?」
「はい」
「平蔵氏は、亡くなった自身の両親の資産を
受け継いでいるので、それなりに所有してい
ます
つまり、資産の面では義父より上です」
それから、風見くんは、調査してきたと言う
平蔵氏の足取りを説明した
25年前に警察を突如辞めた平蔵氏は、その
後、2年間、空白の履歴があるのだ
その間、日本を離れて、近隣のアジア諸国を
歴訪していた様子
インタビューでは、自分の人生をリセットし
たかった、と言う事で、バックパックと竹刀
を持って、各地を回っていた、とあった
「目撃証言が取れたのは、台湾と韓国、香港
の3都市でした」
各地の剣道道場を訪れては、指導して歩いて
いたと言う平蔵氏
その当時、平蔵氏には時々美しい女性が定期
的に訪れて、彼の面倒を見ては帰って行った
と言う噂があった
結婚後、瑠花がそれは自分だと言い張ってい
たのだが、現地の目撃証言とあわない気がし
ていたのだ
目撃されていたのは、黒髪の和風美人
どちらかと言うと、茶髪で派手な顔立ちの瑠
花とは間逆のタイプだったのだ
「写真を見せて、確認してきましたから、間
違いありません」
ごく僅かな期間、滞在して、帰って行く彼女
を、いつも淋しそうに見送っていたのを記憶
している人が各地に居たらしい
2年のブランクの後、帰国後すぐに婚約が大
々的に発表されて、半年後には絢爛豪華な式
が行われている
結婚したのが、現在から23年前
そして、第一子が誕生したのが、今から20
年前の事だ
「つまり、通い妻をしていたのは、服部静華
氏で、彼女の姿が消えた前後に、服部平次は
誕生しているって事だな」
「はい」
そんな報告会の場所に、遠山が現れた
「差し入れです」
お結びやらだし巻きやらを食べながら、話が
続けられた
遠山は、平蔵氏とも対面している
「それが、気になるんです」
平蔵氏は、服部静華の逝去を、全く知らなか
ったらしいのだ
そして、後日、必ず服部と遠山に会いに来る
と約束したと
「平次がいつ生まれたのかも、気にしてまし
たし、何か、色々と腑に落ちないんや」
零さんが、遠山に腑に落ちない事を声に出せ
と言う
まず、あのおっちゃんの評価や
刑事時代と、本部長になってからと、違い過
ぎんねん
退職理由もあいまいやし、退職間際は、ほぼ
毎日、瑠花氏が府警に現れてたみたいやし
ド派手な式やったらしいけど、9割が嫁側の
関係者で、何か異様な雰囲気やったみたいや
オマケに、あのおっちゃん、おばちゃんが亡
くなる1ヶ月前から2年近く、日本を離れてんのや
せやから、おばちゃんの事件、ホンマに知ら
んかった、言うて、ショック受けててん
株主総会が終わるまで待ってや、言うのも、
何かあるような気がするし
止まらない遠山の声に、零さんが手を挙げた
「遠山」
わかった、オレ達もなんかもやもやして来た
ゆっくり話せ、聞いてやるから
まず、オマエが立会う事になった経緯からス
タートしてくれ
はい
それは、長い長い夜の始まりだった
第8章へ、
to be continued
0コメント