から紅の恋歌 「恋歌 下の句 -2」

恋歌 下の句2
5: 恋する2人、動き出す事件

************
和葉へ
楽しみにしとった予定、ぐっちゃぐちゃにし
てしもうて、ホンマにスマン
そして、約束も果たせんまま棚上げしとる事
も、申し訳ない
このままでええとも思うてへんし
オレとしても、それは絶対に嫌やねん
ちゃんと、詫びもしたいし、放してしもうた
約束は、どんな形であれちゃんと果たしたい
今回の事も、棚上げしてしもうてる分も、よ
う考えて、何とかするよって、待ってて欲し
いと思うてる
そんなん言える立場やないってわかってるけ
ど、このままでええとは思うてない
和葉に、諦められとるままでええなんて絶対
に、思うてへんから…それだけは信じて欲し
いねん
弁当、美味かった
ちゃんと食べて、ちゃんと寝て、元気にして
待っててくれ
平次
************

和葉の弁当を持って現れたオカンに託したそ
の手紙は、オレの精一杯

わかってんねん
和葉に代替案、ひとつも承諾してもらえへん
その理由も

どうせ、オレはまた約束を放して事件に行く
って、約束なんしたって、ひとつも果たせへ
んって、そう思われてんのや

そう、期待もされんようになってんのや
完全に、諦められてんねん
せやからオレも意地になって、今回のWデー
トを画策したんや

無理せんでええよ、と言う和葉に、無理なん
してへんと言いつつ、裏で工藤と散々練った
計画やった

行きたいと言われ続けてるけど、一度も連れ
て行けんままのパンケーキの店とか、色々と
調べ倒して、ルートも無理が無いように計算
して、決めた

映画の座席予約は和葉と一緒にして、座席を
選んだりして楽しみにさせたんも、オレや
それやのに、オレはまんまと姦計にはまり、
また、和葉を落胆させてしもうたんや

期待を裏切り続けたその代償は、きっととて
も厳しいモノになるやろうと言う覚悟はある

自分にとっては、不可抗力やったけど
周囲から見れば、己の甘さが招いた結果や

初恋に変な思い入れを入れてしもうた自分や
からこそ、紅葉に厳しい態度を取れんかった
紅葉の初恋を拗らせるような真似したんは、

他の誰でもない、自分やって事を知ったから
もちろん、受け入れる事は絶対に出来ん

オレは、この先も一緒に歩くのは和葉がええ
それは、初恋云々をどかしたとしても、オレ
が選ぶんはアイツだけや

オレが紅葉に強い態度に出れんかったのは、
まぁ、その紅葉を嫌いになれんかった事や

師匠を大事にして、かるたに精進する紅葉が
どれ程の苦労をして、今の地位を得たかがよ
うわかるし、真摯に努力を重ねた結果やろと
言うのも理解しとる

そう言う事が出来る奴は、ホンマに少ないん
やって事も嫌と言う程知ってるオレとしては

和葉にいけずを言うた事とか、名前をバカに
したような態度を取った事は許せんけど、そ
れ以外はどうしても、嫌いになれへんのや

かと言うて、惚れてるともちゃうねん

キレイな人やと思うし、スタイルもええと思
うけど、そんなん和葉かてそうやし
口に出して言うか、言わんかの差くらいしか
無いとオレは思うてる

和葉が可愛ええからキレイに変化しつつある
事は、オレがわざわざ言わんでも、周囲で、
隙あらばちょっかい出そうとしてる面々かて
みんな知ってる事で

手足が長くて、すらりとした肢体がちゃんと
それなりのオンナの身体しとる事かて、みん
な知ってるっちゅうねん

意識してまうから、わざと太い脚やの何やの
言うて、隠せ、と仕向け取るんや

それに、自分は色っぽくないからオレの好み
とはちゃうねんって、この間、ツレ達に言う
たらしいなぁ?

オマエはアホかっちゅうねん
ほな、色っぽく無いやつ相手に、何でオレが
どぎまぎせなアカンねん
オレは変態か?

オマエが知らんだけで、オレの頭の中ではも
う何遍抱いたかわからんくらいやのに

オレがオマエに抱いてる邪な感情に、気付い
てへんのはオマエだけや

気付いてるオカンらからは、さりげなく釘を
さされまくってるっちゅうんや

あーーー、アカン
どんどん思考が変になる

頼むから、逢いたい、声も聞きたい
これ以上オレが変な想像に浸ってしまう前に

この間の皐月堂での事には、誰にも言うてへ
ん事が、ひとつだけあんねん

診察を受けた病院で、迎えの車が来るまでの
間、和葉と2人で病室で待たされたんや

身体が冷え切って、中々温まらない和葉を抱
えて、待ってる間、アイツ、寝よったんや
2人きりやで?

しかもオレ、がっちり抱き寄せてんのやで?
緊張が解けてダウンした、言うても、もう少
し警戒すると思わんか?

…オレをオトコとして意識しとる、言うなら
すうすう眠る和葉に、完全にオンナを意識し
とるオレに、我慢しろ、言う方が酷やと思う

せや、してしもうたんや

…その、世間で言うところの、接吻と言うか
キス、を
それも、軽く1回で止められへんで、かなり
その、ディープな方も…な

抱き寄せた身体を弄るのは、最後の理性をか
き集めて我慢した
その分も、キスは止められへんかったんや
どうしても

最初は額とかこめかみとか、頬とか耳とかで
我慢しとったんやけど
オレで暖を取ると決めたんか、ぴとっとくっ
ついて安眠するのを見て、スイッチが入って
しもうたと言うか、何と言うか
気がついたら、唇を重ねてしもうててん

目、覚ましてくれへんかな、と思うたけど、
目覚めるどころか、どんどん深く眠りに入っ
た和葉に、がっつりキスしてしもうたんや

さすがに、ディープキスは苦し気にしとって
目を覚ますかなと思うたけど起きへんかった
もし後5分、迎えが遅かったら、オレは多分
和葉を押し倒して何かを始めてたと思う

許される事や無いけど

もう、我慢出来ひんかったんや
和葉の、全部が欲しい

そう思う気持ちは、止められへんかったんや
あの時の腕に抱いた感触と、唇で触れた感触
が蘇り、不意に鼓動が速くなる

アカン、こんなんダメや
そう思って飛び起きた時、携帯が震えていた
のに気がついた
寝ぼけた頭で、携帯に出た

「くどー、こない朝早くから、どないしたん
や?」
「へーじ、この電話はコナンくんのやで」
か、和葉か?
「私やまずかった?ほんなら、切るし」
「ま、待て!和葉!」

手紙、おおきにって言うておきたかっただけ
やからと言うて、ほな、と言おうとするのを
全力で止めた

「ホンマに、すまんかった!
オレの配慮が足らんで、嫌な思いさせてしも
うて、ホンマに、すまんかった」
楽しみにしとった予定、めっちゃくちゃにし
てしもうて、すまんかった!

和葉の声が聴こえんようになるのは嫌やって
思うたら、素直に謝れた
私も、と言いかけた和葉を制した

オマエは悪くない
今回は、誰がどう考えても、オレが悪い

風邪ひいてんのか、泣いてたんか、鼻声やな
と思うと心配になる

確かめる術も、今は無い

少しだけ、声を聞いていたくて、くだらん話
をして引き延ばした
ちゃんと寝てんのか?とか
オマエは中身が足らん(軽過ぎや)から、
ちゃんとしっかり食ってんのか?とか
おそらく、ちゃんと食べても無ければ、寝て
も居らんやろな、とわかるけど

ふと気が付くと、オレはそろそろ動き出すべ
き時間が近づいていた

和葉に、色々な雑音はいちいち耳を貸さんで
ええから、振り回されずに信じて待ってろと
言うて電話を切った

励ましたる、思うてた雑談で、逆に自分の方
が励まされて、ホッとして、満たされた

今日は、いつもより早く、執務室や道場の掃
除を始める事にしてん

朝稽古を終え、道場を去ろうとした間際にお
っちゃんが現れた
三本勝負を受けてくれたのだ

おっちゃんと親父相手に、ホンマにギリやっ
たけど、辛勝したオレ

やった、と、子供の頃からの勝ちたい、と言
う欲求が満たされた事よりも、この先、自分
が追うべき責任に、背筋が伸びるけど

いまひとつ、実感が湧かなかったのだ

いつもやったら、あの笑顔で勝利を信じるん
やけど、今日はその顔が傍らに無いからや

「あぁ、とうとう負けてしもうたな
平蔵、オマエまで負けんでもええやんか」
「不本意や💢」

道着姿からスーツに着替えたおっちゃんらと、
親父の執務室に戻り、おっちゃんが居らん間
に起きた騒動について、詫びた

「そんなん、ええわ、別に気にせんでも」
今までかて、和葉をどうの、オレの再婚がど
うの言うては騒ぐ奴等は仰山居ったし
特にこの1年は、和葉を、言う話は絶えずあ
ったからなぁ、と笑うおっちゃんに、オレと
親父が仰天

「オレは和葉を人質に取られてまで、刑事や
今の役職にしがみつく気は無い」
変な奴等に和葉をやるくらいやったやら、交
番のおまわりさんでも、内勤でも何でもええ
わ、と言う

「刑事部長の代わりはいても、和葉の父はオ
レだけや、代わりは居らんからな」
平蔵は、別として、と笑うおっちゃんは、昔
と同じや
父子家庭になった、あの当時と、な

「しかし、今回は相手が悪いな」

苦笑するおっちゃんは、闘わずして職を自ら
放棄する気は無い、と言う
親父は、タイミングも最悪やとオレを睨んだ
「で、肝心のうちのじゃじゃ馬姫はどこに居
るんや?」
せや、オレも居場所までは聴いてへんかった

「神戸の池波家別邸、や」

こらまた偉いとこで匿われてるなぁ、と笑う
おっちゃん
オレも、確かに、と思うた
それに、何でオカンは和葉やコナン達を連れ
て家出したんやろか
それも、腑に落ちん

「オマエと和葉のトラブルの一部始終につい
ては、ほぼリアルタイムで映像が届いてたっ
て教えたやろ?」
「あぁ」
「出張先のオレの所にも届いてたんや
仕事中やったから、全部は見いひんかったん
やけど」
いずれも、家族連絡用の個人携帯の方やった
と言うおっちゃん

「おそらく、服部・遠山両家の家族の携帯に
関して、電話番号だけやなく、メールや他の
アカウントも抑えられたっちゅう事や」

服部邸を空にしたのには、理由があったと言
う親父達
その間、主不在の服部邸には、徹底した調査
が入ってると言う

「ついでに、うちもやってもろうてん
和葉が居ったらアイツ、心配して騒ぐやろ?
せやから、平蔵に相談された時に、静さんに
預ける、言うたんや」
服部邸に行かないのなら、うちへ、と和葉や
ったらそう言うやろな

「和葉の携帯は、コナンくんが知り合いの博
士に頼んでくれたみたいやし、念のため言う
て静華さんや蘭ちゃんらの携帯もチェックし
てくれたから大丈夫や」
「つまり、後、調査してへんのは、オマエの
携帯だけ、っちゅうワケや」

差しだされた袋に、オレの携帯を入れるとそ
のままやって来た秘書へと渡された

「今後、面倒でも携帯は2台にせえ、オマエ
も和葉も、や」

緊急時の連絡用として1台、そちらは家族以
外への公開は禁止やと言う
手配中やから、近日中には届く、と親父
確かに、SNSに関しては、トラブル回避のた
めに、和葉にもきつく言うて、アカウントは
一切、持たせてへん
(ホンマは、家族だけではあるんやけど)
でも、さすがにメールの方は、友達にも報せ
わ。と言うワケにはいかんからな

「誰が仕掛けたかわからんけど、服部家も、
遠山家も、情報関係はほぼ丸裸にされとった
っちゅうワケや」

その目的、おそらく、両家にほぼ同時にあっ
た事を考えるなら、オレらの仕事関係言うよ
りも、平次、オマエと和葉に関するトラブル
が要因やろ、と思うてる

「トラブルって言うても・・・」
「現在の第一容疑対象は、大岡家や
でも、オマエの返答次第では、第二、第三の
候補が出るけど、どないやねん」
「どない、言われても心当たりなんて無いし」
「これだけの規模で色々と小細工するとなる
と、どんな技術を駆使したとしても、それな
りの金がかかる」

在る程度の資金や設備を保有していて、オレ
や和葉に何らかの嫌がらせと言うか別れさせ
るために尽力するような奴らが居るかと言わ
れても

確かに、オレも和葉もここ半年は告白される
数が急上昇やった
和葉の数が少ないのは、オレが日々威圧しと
んのと、ツレ達が妨害してくれとったからで
あり
もし、それが無かったら、きっとオレより多
かったはずやと思う

オレに直接、抗議に来た連中も居る
幼なじみでいつまで邪魔しよんねんと集団で、
やったけど

でも、いずれも年齢層はオレらとほぼ同じや
し、ズバ抜けての金持ちも居らんし、メカに
強いヤツとか、情報を盗む事に長けてるよう
なヤツは、ひとりも居らんかった

紅葉が小細工しよるチャンスは無かったと思
うてるけど…
執事の方には、チャンスがあったと思う

「もし、オレの携帯に細工がされとったとし
たら、あの時しか無い」
「いつや」
「あの秋の事件の後、や」

ある事件帰り、紅葉と執事が現れた事があり
面倒やから、和葉や工藤らには言うてへんか
ったんやけど、1度だけ、オレは紅葉に事件以
外で会った

どうしても、と言われて、屋敷へ誘われたん
を、さすがにそれはマズイ思うて、近くの喫
茶店(それも、小洒落てへん店)へ立ち寄っ
たんや

「その時、オレのバイクを動かしてくれ、言
われて、席を立ったんやけど」

テーブルの端に、携帯を置きっぱなしやった
紅葉は確か、お手洗いに行くと言うて、同じ
タイミングで席を立った

あの場に残ってたんは、執事と喫茶店のマス
ターと、数名の客だけや
親父に、言われて、立ち寄った日時と場所等
を伝えた

「相手が相手や、疑いだけで踏み込むワケに
はいかん」
証拠を押さえな、と言う

オレは、ふと思い立って、親父に頼んだ

あの日のオレのバイクが走ったルートの車両
認識システムの確認と、紅葉の車の確認や
まさかとは思いたいけど、映画の日の事と同
じ事、されてたんちゃうかって言う疑念を晴
らしたい、思うたんや

数時間後、オレの疑念は確信に変わった
オレの行動は、途中から完全に、紅葉の車に
導かれていたんや

嫌な予感がして、オレが事件に出掛けた日に
ついても、調べてもらうと、紅葉が車に乗っ
ていたかは不明やけど、確かに執事が運転す
る車が、オレの行く現場、現場にひっそりと
現れていた

こんなにも長く、尾行されとったと言う事実
に、オレは気付かなかった自分を恥じると共
に、あの事件以降、和葉を連れていなくて良
かった、と、心底安堵した
和葉が一緒やったら、どんな手を使われたか
わからんからや

そして
予想通り、オレの携帯は踏み台にされてた

オレのメールや通話、メッセージ、全部を盗
み見されとっただけやなく、オレが頻繁に連
絡する相手の情報も収集されとった
簡単なウイルスが仕込まれてたんや
覗き見だけやなくて、な

和葉の携帯についても、博士から警視庁経由
で解析結果が届いたらしい

こちらの方は、オレからのメールでウイルス
感染した後に、メモリの内容を少しずつ壊し
て行く細工がされていた事が判明した

博士が何とか救出出来た分の写真や何かをデ
ータで送ってくれたけど、おそらくは、和葉
が大事にしとった写真のいくつかは、もう復
元不可能やろう、と思った

オレが、もう少し早く気付いていたら

意地っ張りの和葉は、きっと、平気や、と言
うやろうけど、これは確実に泣くな、とオレ
だけはわかった

昨年のサクラ巡りで、和葉が撮影したお気に
入りの写真が、無かったんや
残されたデータの中に、な
珍しく、オレも和葉も素で笑ってて、風に桜
の花びらが舞ってて、奇跡的に撮れた一瞬や
ってん

桜がキレイやー、言うて、和葉、喜んでて、
待ち受にしとったはずやねん
つい、先日まで、な

バックアップ、取っておけばよかった
あの写真だけは、和葉、オレにデータくれへ
んかったんや

身体を傷つけると言うより、その精神、その
心を直接傷つけるやり口に、さらにオレは強
烈な怒りを覚えた

「平ちゃん、気を乱した方の負けや」
捜査の時は、無心
これ鉄則やって、教えたやろ?と笑うおっち
ゃんは、オレの背中を叩くと、仕事へと戻っ
て行った

「オマエは、外に出たらアカン
まだ、家の捜査結果が届いてへんからな」

オレに与えられたんは、オレの行動をいつか
らあの執事に追われていたのか
Nシステムから読み解いておけ、と言う宿題
やった

まさか、とは思うけど、あの秋の事件以前に
ついても調べた方がよさそうや、と思うたオ
レは、範囲を広げてデータを要請した

色々な事件に関わって来たけれど、ここまで
執拗に自分がつけまわされていた事に、少な
からずオレは吐き気を覚えた

調べれば調べる程、自分が出逢う前からかな
り綿密に調査されている様子に、オレは愕然
とした

大きな事件が起きる前に、発覚して良かった
と思うと共に、このまま知らんままやったら
オレは和葉を救えんかったかも、と思うと、
震えが来る
俯いて、顔を手で覆うが、その手が震えてし
まう

「へーじ」
顔を覆って俯いていたオレの耳に、聞こえる
はずの無い幻聴が聴こえる

「へーじ?平次ってば!なぁ、大丈夫?」
激しく揺さぶられて顔を上げた
覗きこまれた見慣れた顔に、条件反射で手を
伸ばした

きゃあ!と言う声と共に、ふわり、といつも
の馴染みの香りがした
つかまえたその温もりに、顔を預けて、そっ
と深呼吸すると、眩暈がしそうやった

「かずは、か?」
「うん、そうやけど」
「無事、やったんやな」
「うん、何もあらへんかったよ?
蘭ちゃんとコナンくん見送った後、おばちゃ
んが用事で出掛ける言うから、私はここに、
送ってもろうてん」

「そうか」
抱き締めた柔らかな身体に、ちゃんと体温が
あって、心音があって、安心する
良かった、コイツは無事や

「あ、あんな、へーじ、離してくれへん?」
「嫌や」
「いや、言われても、その…」
「ラブシーンは、その、後で、家でやってく
れへんか、平次」

親父の声にはっとした

オレの上に転がってたんは、紛れも無い和葉
真っ赤になって困った顔をしとったし、振り
返りたくもない背後からは、容赦無い、鋭い
痛い視線を感じていた

「す、すまん、ちょお考え事しとって」
慌てて和葉を抱き上げ、隣に座らせた
白いふわふわのついたケープを着た和葉は、
それを脱ぐと、珍しい服を着てた

紺色の、清楚なワンピース
スカート丈も、ミニでは無い膝丈フレアや
髪にも紺色のリボンやった

「和葉のその服」
「あ、おっちゃん凄い!わかったん??」

おばちゃんきっと、めっちゃ喜ぶで💕と言
う和葉は、満面の笑み
何や、コイツ、ちゃんと元気そうやんけと、
ちょっと安堵する

「この服な、おばちゃんの昔の服やねん」
「おばはんのか?」
「うん、おばちゃんがな、お屋敷の中で見
つけてくれてん」

白いケープと、紺色のワンピースは和葉が貰
い、紺色のケープと、白色のワンピースは姉
ちゃんが譲り受けたらしい

「蘭ちゃんと、色違いでお揃いやねん💕」
どっちがどっちの色にするかは、オカンとコ
ナンでジャッジしたと言う

「他にもいくつかもろうたんよ?
おっちゃんにも、後で見せたるから、楽しみ
にしとってや?」

今日は、髪もおばちゃんに結うてもろうたん
やー!と、ご機嫌な和葉に、親父までがあか
らさまにホッとした顔をした

「ほな、和葉、平次がどっか行かんように、
ちゃんと見張っててや?昼は遠山と一緒にど
っか連れて行ったるから」
「ホンマに?久しぶりやなぁ、楽しみにしと
るな」

お仕事頑張ってや、と手を振られた親父は、
オレには見せる事のない甘い顔をして部屋を
出て行った

「もう、誰も居らんよ」
「え?」
「ええから、全部、話して!
何があったん?平次があんな顔するなんて、
よっぽどの事やろ?」

和葉は真剣やった
その大きな黒い瞳の中に映るオレは、情け無
い程、彷徨ってる顔をしとった

右隣に座ってる和葉の左手を握り締め、オレ
はひとつずつ、説明した
もちろん、和葉の見合い話をのぞいてや

握る掌を握り返されるのを感じて、その手を
見てぽつり、ぽつりと話した
どれ程の時間がかかったかはわからん

でも、話し終えた後、暫く沈黙していた和葉
が口を開いた

「何か、おかしいと思わん?平次
何もかも、何や、ちぐはぐな感じがするんや
けど」

握られた手はそのままに、右手の人差指を唇
に当てて思案顔の和葉を見た

「紅葉ちゃんは、いつか平次に再会する時の
ためにって、血が滲むような努力をして、あ
の実力を身に付けたんや」

ホンマに、ずるばっかして平次の婚約者にな
るつもりやったら、紅葉ちゃんの家やったら、
もっと簡単やったんとちゃう?

京都と大阪やし、平次の家も平次も有名やし、
そんな苦労せんでも、すぐに身元は割れたと
思うねん

真っ直ぐにオレを見る和葉の大きな瞳には、
一切の邪念が無い

「ぶっちゃけた話、中学生くらいでもう有名
なクイーン候補やってん、紅葉ちゃんがその
気になったら、執事なん使わんでも簡単にア
ンタを見つけられたはずやねん」

だって平次、剣道の方で、何度か取材受けて
たやんか、中学くらいから、と言う和葉に言
われて、そう言えばそうやと思い出す

「それやのに、何で、今まで待ったんやろ」
「待った?」
「実はな、この間、言われてん
春の剣道の大会の時、友達が紅葉ちゃん、会
場で見かけたって」

「は??」
春の剣道の大会って、あの東京行って、オレ
と沖田が事件で試合放棄してしもうたあの大
会か?

「せや、あの大会や」
私は気が付かんかったんやけどな、友達が会
場でめっちゃ浮いてたから、この間のかるた
競技会で、紅葉ちゃんの映像みて、すぐに判
ったって、と言う

オレが、告白賭けて挑んだ試合やったんやけ
どな…

「まぁ、時々ズルはするけど、紅葉ちゃんや
ったら、もっとストレートに邪魔すると思う
ねん・・・この間みたいに」
ちょっとしゅんとした和葉に、オレは握って
た掌に力を込めた

「せやから、紅葉ちゃんの意地悪とはちょお
違うと思うねん」
「それは、オレもそう感じてたけど、正直、
お嬢様想いの執事の暴走を、知ってて止めな
かったんか、知らんかったんかは…オレには
判断出来ん」
「うん、それは、私も判断出来んけど」

けど?
何や、伊織さんって執事さん、ホンマに、伊
織さんなんやろか
???

「池波家の西條さんって知ってるやろ?」
「あぁ、オカンの片腕やろ?池波家の仕事し
とる時のオカンのサポートしとる…」

「そうそう」
私も今回、送ってもろうたり色々お世話して
もろうたんやけどな、おばちゃんと西條さん
の関係を見てるとな、紅葉ちゃんと、現在の
伊織さんって、話を聴いてると、何か違和感
感じるんや

紅葉と、伊織?

「紅葉ちゃんと会った時に知り合いになった
伊織さんと、知らん時の伊織さんの仕事振り
がな、何か変やと思うんよ」
お仕えしとるお嬢様の幸せを願って、と言う
行動には、どうしても、思えへんと言う和葉

「伊織さんが、時々誰かと入れ替わってるっ
て可能性は無い?」

紅葉ちゃんの、知らん間に、や、と言う和葉
は、紅葉ちゃんは耳も勘もええから入れ替わ
ってたら絶対に判る、と言う

とりあえず、和葉の仮説について親父に話し
て人物調査を急いでもらうようにした
にしてもコイツ、よう冷静に考えよったな
散々、嫌な想いもしたやろうに

「おばちゃんと、西條さんを見たからや」
にこっ、と笑う顔は、いつもの和葉や

「オマエの携帯、ダメにしてしもうてすまん
かったな」

データ、殆ど復旧出来んかった、と言うと、
もう諦めてたから、少しでも復旧出来たんが
あったんなら、良かった、と笑う

「でも、あの写真…」
「写真?」
あぁ、待ちうけの写真?と言う和葉

ちょっとだけ手を離してもええ?と言うんで、
慌てて握り込んでしもうてた手を離す
白い手が赤くなってしもうてた

「スマン、痛かったやろ」
「ううん、大丈夫や」

ごそごそと、鞄から、御守りを出す和葉

「前にな、哀ちゃんに言われたんよ
携帯なん、いつどうなるか判らんのやから、
ホンマに大事なデータは、ちゃんとバックア
ップ、定期的に取った方がええって」

やり方を教えてもろうて、時々、ちゃんとバ
ックアップ、取ってたんよ、と言う
全部やないんやけどね、と
御守りの中から記憶媒体のカードが出て来て、
見せてくれた

直近のは無理やけど、先月までのやったらこ
こに在る程度のデータはある、と言う

「モノや写真かて、永遠の生命やない
予期せぬ事が起きて、アカンようになってし
まう事やってあるんや」
私が、私の中にちゃんと覚えてるからええね
ん、と笑った

楽しかったサクラ巡りの想い出も
キレイやった景色も
一緒に見た風景も

「平次やって、覚えてるんでしょ?」
「あぁ、もちろんや」

せやったらええわ、と言うて、御守りを鞄に
しまった和葉
でも、ホンマは口惜しかったやろなと思う気
持ちもわかるから、胸がチクリ、とした

ホンマは抱きしめたいと思うたけど、いつ誰
が入って来るかわからん場所やし、何せ親父
に見られた後やしで、せめてもと、隣に座ら
せて置いた

オレと別行動しとった間の事、聞いたんや
神戸の池波家別邸は、オレも子供の頃以来や
しな

おばちゃん、凄いんやで!と鼻息荒く和葉が
力説したのは、パンケーキの事やった
作り方も教えてもろうたし、後で家に帰った
ら、平次にも作ったるな?と笑う

着物着て、京都に行った事とか、コナン達と
の事とか、よう飽きもせず、和葉は喋り倒し
てん

「は?熱出したって、もう平気なんか?」
「うん、もう平熱やし、食欲もあるし」

ホンマに、しっかりしてくれや
頼むで、和葉

「お!お二人さん、仲良うしとるか?」
「お父ちゃん!」

飯、食いに行くでーと言うおっちゃんが入っ
て来て、父親大好きな和葉はすぐに飛んで行
った
(まだまだやな、オレ)

腕を組んであるくおっちゃんと和葉の後を歩
いて、府警を出た

馴染みの定食屋におっちゃんらと行くと、店
主が、おや、和葉ちゃん、今日は随分と余所
行きやなぁ、と笑顔を見せた
たらふくご馳走になって、その後、家電量販
店へ向かい購入したモノを預かると、オレと
和葉は、迎えに来た池波家の車に乗せられた

「夕方、オレが静さんと合流して行くさかい、
悪いけど平ちゃん、よろしゅうな」
西條さん、悪いケドよろしゅうな、と言うお
っちゃん
「かしこまりました」

「西條さん、久しぶりやな」
「お久しぶりです、平次様」

平次様言うキャラとちゃうんやけど、と言う
と、さすがにもう、坊ちゃまは、と苦笑され
たオレ
和葉が、車に乗る前に買うたお茶を1本渡す
と、ありがとうございます、と笑顔を見せた

途中、和葉がスーパー寄りたいと言い、立ち
寄ったり、少し、神戸の街を走らせましょう
か?と言う西條さんの誘いで観光をしして、
オレらは池波家別邸へ到着した

「恋歌 下の句3」へ
to be continued


7th heaven side B

Ame&Pixivにて公開した二次創作のお話を纏めて完成版として倉庫代わりに置いています^ ^

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