For you 完全版_10

最終章 卒業式

部屋に、柔らかな陽射しが差し込むのに気が
ついて、目を覚ました

「服部さん、点滴、交換しますね」
いつもの看護師さんが声をかける

「すんません、コイツ、爆睡すると起きんの
や」

苦笑する看護師さんは、テキパキと作業をし
て、終わる頃に来ますねと言うて去って行く
酸素テントの中の和葉は、今日は少し調子が
よさそうで、安眠中、と言ったところ

オレが駆け付けた時、和葉は生きるか死ぬか
の選択をホンマに迫られとった

意識の無い和葉にキスをして、一緒に病院、
行こうな、と声をかけ、抱いて救急車に乗り
和葉と病院に戻ったんや

集中治療室でまさしく死闘する和葉をずっと
見守った

姉ちゃんは取り乱して泣くばかりやし、工藤
は自分が悪い、と土下座して謝った
でも、オレは、2人を叱った

「和葉が望んだんや
姉ちゃんの元に、工藤を返してやりたいって
そのためやったら、何でもやるって」

オレと工藤と約束した通り、和葉は姉ちゃん
とオカンを護ってくれた

和葉は、ちゃんと約束を果たしたんや
謝って欲しいとは思うてへん 
ただ、褒めてやって欲しい

あんな細っこい身体で、頑張ったんや
今も、全力で戦ってんのや、アイツは
オレが服部邸に戻るまで、護るんがオマエの
役目やって言うた言葉、真に受けてな

「和葉が生命張って護ったんや、幸せになら
んかったら、オマエら地獄に落とすで?」

わかったら、とっとと服部邸に戻って工藤は
まず、オレや和葉やなくて、姉ちゃんに謝れ
全てはそこからや

オカン、この2人、連れてけや
オレは和葉の傍に居る
誰にも邪魔されたくないから、みんな帰って
くれんか

そう言うて、オレはそのまま病院に残って
ひとり和葉をガラス越しに見守った

見かねた先生が、防護服を着て、マスクをす
るなら、と入れてくれて、オレは冷たい和葉
の手をずっと握ってたんや

和葉は、夜中、物音に反応して侵入者と対峙
してしもうたらしい

奴らの狙いは姉ちゃんか和葉で、それはもう
激しい争いを繰り広げ、予想外に和葉が手ご
わいと思うた犯人が、面倒やって階段下に、
投げ捨てて、和葉は大けがを負ったらしい

浚って脅迫材料に使うつもりやった、と供述
した犯人は、一瞬の隙をついて服毒自殺した
と報告があった

当時、服部邸には刑事が数人宿泊しとって、
ホンマはその内の数名は警護をしとらなアカ
ンかったのに、オレらの凱旋ニュース後、す
っかりみんな任務完了モードになってしもう
たらしく、反応が遅れたらしい

仕方ない、滞在しとったんは、全員地方から
応援で呼ばれた刑事達やってん
みんな現場慣れしとらん新人ばっかりで

オカンと姉ちゃんが飛び起きた時には、まさ
しく和葉が階段から落とされる瞬間やったら
しくて、犯人制圧した姉ちゃんでさえ動顛し
たらしい

和葉は、ちゃんと応戦出来てたらしく、顔と
かに切り傷はあるものの、殴られてはなくて
落下して受け身を取ったものの、衝撃は避け
られんくて、上腕部と脚を骨折して、背中を
激しく打ち付けたために、肋骨や肺にダメー
ジを受けてしもうたんや

「普通のお嬢さんやったら、おそらく助かっ
てはなかったと思います」

救急搬送に付き合うてくれた医師は、現場を
見てそう言うたらしい

とはいえ、和葉は全治半年以上の大けがを負
ってしまい、その回復は未知数とされた
その事をオレはまだ和葉に伝えられずに居た

不意に手を握り返されて、意識が戻る

「おはようさん」

笑みを見せた和葉の頬を、酸素テントの中に
手を入れてそっと撫でた
じっとオレを見る瞳を見て、その冷たい手が
オレの指輪を触ってるのに気がついた

「オマエはむくんでしまうから、当面はダメ
や、せやからオレがちゃんと持っとるし」

首の鎖の先に、和葉の指輪がひっかけてある

「和葉のおかげで、工藤、撃たれたけど助か
ったんやで?」

オマエ、ようあんなの思いついたなぁ、と言
うと、満足そうに笑う

呼吸が辛くなるから、あんまりしゃべられへ
んのや

せやから、オレがしゃべって、和葉は表情や
手を握って返事をする

日中、適度なところでオカンが来て、オレの
行き届かないところを色々とフォローして帰
るんやけど、オレも出来る限りはした

和葉は当然、嫌がったけど、オレ、夫やで?
と言うと真っ赤になってしゅんとした

「和葉、オレ、ちゃんと宣誓したやろ?
健やかなる時も、病める時もってな」
オマエ、オレが入院中はいっつも色々やって
くれるやろ?

そう言うと、膨れながらも頷く和葉が可愛く
てしゃーないオレ

少しずつ回復する和葉を、嬉々として構うの
を、看護師さんや医師達が笑ってんのは知っ
てたけど、オレは一向に気にせんかった

和葉が酸素マスクだけで起き上がれるように
なれば、ケガしてへん方の脚や腕をマッサー
ジしてやったり、もう少し回復してからは、
速攻で車椅子に乗せて、病室の外も出歩いた

元々、オレの後を飛んで歩いていたおてんば
娘や、ずっと病室は息が詰まるやろ、とな

「お、和葉ちゃん、今日も騎士が一緒でええ
ねぇ」とか、
「何や、兄ちゃん、まだ居たんかいな
ホンマ、姉ちゃん大好きなんやな」とか

段々、病院内の患者さんやらその家族とも会
話するようになって、一進一退を繰り返して
た和葉の症状も、どんどん改善されて行く

でも、医師からは宣告された

和葉の上腕部と脚の骨折箇所にボルトを入れ
る事と、上腕部は殆ど気にならない程度にそ
の傷跡を手術で消せるが、脚はとくに足首付
近に傷跡が残るだろう、と

そして、運動機能の回復がどこまで望めるか
リハビリ次第だが、痛みは身体に残されるか
もしれへん、と

傷跡なん、正直どうでもええと思うけど、で
も後遺症が残る、と言う事を避けられへんと
判った時、オレは一度だけ、人知れず泣いた

何で、和葉やねん、と

和葉にも、いつまでもは隠してられんから、
体調を見て、オレは素直に伝えた

覚悟はしとった、と言う和葉やったけど、そ
の後火がついたみたいに泣いた

そしてオレに、離婚してくれって言うたんや

迷惑、かけられへん、刑事の奥さん、勤まら
んかもしれん、言うて

「それは、オレに死ね、言う事か?」

せやったら、オマエ殺してオレも死ぬけど、
そんな選択は絶対、させへんで?

痛みの回避方法は、色々な先生に相談して、
何とか和らげる方法、捜したらええ
脚が多少不自由でも、翠かてオマエより大け
がしてもあそこまで回復したんや、まだリハ
ビリもしてへんオマエがそんな弱気でどない
すんねん、と叱った

「オマエが生きとってくれたら、それでええ
傍に居ってくれたらええねん」

それ以上は望まんと言うて和葉を抱き締めた
今度、離婚やって言うたら、絶対に許さんか
らと言うて

もう弱気な事は言わん、と呟いた和葉に、オ
レの前ではぐっちゃぐちゃでええ、と言うた
めちゃくちゃでも、ぐっちゃぐちゃでもええ
から、ちゃんと言え、と
せやないと、鈍感なオレは見過ごしてしまう
からな、と

約束してからの和葉は、ホンマに強かった

キツイ治療も頑張ったし、繰り返される手術
にも立ち向かったし、壮絶なリハビリにも耐
えた

オレの方が泣きたいくらいの時もあったけど
必死に頑張る和葉に、オレが励まされたんや

工藤と姉ちゃんは、オカンが仲裁して、思い
っきり言いあいをさせたらしい

「まぁ、凄かったで」

アンタらの喧嘩も凄いけど、工藤くんらのも
中々、見物でした
和葉に、りんごを擦って食べさせるオレの傍
で、オカンがそう証言した

工藤は工藤で、ずっと念願やった事がたくさ
ん有り過ぎて、姉ちゃんの都合を全く考えて
なくて

姉ちゃんは姉ちゃんで、ずっと我慢しとった
事を漸く、吐き出したらしく

「お互いが、お互いを想うあまり、行き違っ
てるだけや、あの2人は」

オカンは、あの2人に必要なのは、2人だけ
でお互いの本音をさらけ出す練習やって言う

工藤と姉ちゃんは、ずっと服部邸に居るんや

まだ姉ちゃんの両親はおっちゃんの仕事を手
伝うてて、不在やねん
工藤の両親もな
帰宅するまで、2人はオカンが預かってん

「今、工藤くん、何しとると思う?」

家事全般や、と笑うオカン
2人で、免許も取りに行っとるで?と

姉ちゃんが鬼軍曹になって、家事を1から学
んどるらしい

姉ちゃんは、工藤と同時には渡米出来んと言
うてるらしいねん

私は、和葉ちゃんと違って、ずっと留学準備
をしていたワケでは無いから、それなりの準
備が必要だと姉ちゃんは言うたらしい

「こればっかりは、蘭ちゃんの言う通りやね
工藤くんや和葉ちゃんみたいに、経験があっ
て留学するのと、何の準備も無しに行くので
は、どうやっても、向こうで経験出来る事に
雲泥の差が出てまう」

うちの場合は、幸い、ボンが英語が得意やっ
た言う事があったから何とか追いついたけど
それかて私の予想やと、平次の方が向こうの
授業に慣れるまで、多少苦戦すると思うわ

「まして、蘭ちゃん、法学希望やろ?」

ハードルはめっちゃ高いはずやと言うオカン
オレも、それはそう思うてた

「工藤くんの気持ちもわかるんやけど、これ
ばっかりは、無理や」

どんなに蘭ちゃんが優秀でも、こんな短期間
では到底準備が間に合わんわ

それに、とオカンが言うた
蘭ちゃんは、せっかく入学手続きを取った大
学に通わないのは、両親に申し訳ないって

あの姉ちゃんが、家計を切り盛りして苦労し
とったのを、オレも和葉もようわかっとる

確かに、姉ちゃんならそれを真っ先に心配し
たんやろ、と理解出来た

工藤なら、金なら工藤家で、とあっさり言い
そうやけど、そう言う事をよしとするオンナ
では無い
姉ちゃんも、和葉も

「蘭ちゃん、後から行くって?」
「そうなんよ、まずは、日本で基礎をしっか
り学んでから行きたいって」
「そら、姉ちゃんが正しいやろ」

和葉にストローでお茶を飲ませながら答える
オレを、オカンが笑う
アンタ、ホンマに手慣れて来たな、と

入浴は拒否されたけど、洗髪はオレがしてや
ってるんや、と言うと、和葉が真っ赤になっ
て怒った
恥ずかしい、と

「和葉ちゃん、ええんや
いっぱい甘えたらええ、この人、甘やかした
くてしゃーないみたいやし?」

うふふと笑うオカンに、和葉はふにゃり、と
言う様子で笑う

「お肌もがさがさしてへんし、平次もちゃん
とお世話が出来てる証拠やな」
良かった、と言うオカン

静養するだけなら、早く帰りたい、と言うん
やけど、まだ、和葉の体力が足らんから無理
やって言われてん

和葉との入院生活も気がつけば1ヶ月になっ
てしまい、確かに和葉が帰りたい言うのはオ
レもわかるんやけど

問題は、卒業式やねん

2週間後、改方学園の卒業式が予定されとっ
て、オレはその後、和葉との件で記者会見を
受ける予定やったんや

おまけに、昨日、こっそり見舞いに担任がや
って来て、オレに卒業生代表の挨拶をしろ、
と言うてん

和葉の病室には、警備がついてて、家族以外
面会謝絶や
個室やし、隔離されとるから静かやねんけど
担任は、オカンが気が付いて招き入れたんや

脚やら腕やら固定されとる和葉を見てショッ
クは受けてたけど

「遠山いや服部か、まぁ、どっちでもええわ
よう、頑張ったな」

和葉に、オレにもそう言ってくれたんや

中高6年、剣道部で世話になった先生で、和
葉とオレの事も、渋る他の先生らを説得して
最後は責任取る言うて庇ってくれたのは、こ
の先生と合気道部の先生やった

「卒業生代表挨拶、やれ」

最後や、どーんと派手にやれ、と笑い、挨拶
の中身は当日、オマエが持参したらええ

オマエの仕事は、立派な挨拶をして、頑張っ
とる嫁さんを安心させてやる事や
そう言って、オレの肩をぽんと叩いて、ほな
卒業式でなー、と帰って行ったんや

「平次の挨拶、生で見たいし、卒業証書も、
ちゃんと受け取りたい」

和葉はそう言うて、リハビリをめっちゃ頑張
ったんやけど、卒業式前までに退院は実現は
出来んかった

でも、頑張った和葉に、と、外出許可は下り
たんや

外泊許可は下りんかったから、卒業式が終わ
って、服部邸で行われる宴会に出たら、オレ
と和葉はその日中に病院に戻らなアカンのや
けどな

卒業式前日、オカンは和葉の髪の手入れをし
和葉とオレの制服を病室に持って来てくれた

「オマエのセーラー服姿も、最後か」
「平次、何かその発言やらしいで?」

その夜は、和葉のベッドに潜り込んで、一緒
に寝た
(さすがに、手は出してへんで?)

翌朝、セーラー服で車椅子に乗った和葉に、
仲良くなった入院患者さんらが、花束をくれ

「気をつけて行ってらっしゃい」

そう言うて見送ってくれてん 

迎えに来てくれた大滝ハンの車に乗り込んで
学校に到着すると、もう凄い人が集結しとっ
たんや

そう、1日早い昨日、帝丹高校の卒業式があ
って、工藤は退学届を提出し、姉ちゃんとの
交際を公式に発表したんや

それだけじゃなく、高卒認定を取り9月から
は渡米すると

工藤はFBIのオファーを受け入れたんや
向こうで大学生活をしながら、FBIの捜査協
力にも応じるってな

姉ちゃんは1年遅れで追いかける予定
もう勉強をスタートさせとるらしい

で、オレはどないすんねんって注目を浴び
てしもうたんや

元々、高校卒業したら、結婚の事実を公表
するつもりやったしええんやけど
裏口から学校に入ると、既に晃と翠が待機
しとってくれて、こっそりと卒業生控室へ
和葉を運んでくれた

そう、車椅子の和葉に配慮して、オレらの
クラスは自分らのクラスではなく、格技場
を控室にしてくれてん

おかげで、余計な視線に晒される事なく、
体育館まで移動出来るんや

久しぶりの和葉に、クラスメイトは大騒ぎ
部活の後輩たちも現れて賑やかな控室

オレは、入場直前、和葉の指に指輪をした
自分も、今日ははめてある
車椅子の和葉に、会場はちょっとざわつい
たけれど、式はスムーズに進行

「たくさんの友を得て、その協力の元過ご
せた日々に感謝して、新しいステージへ進
んで行きたいと思います」

最後になりましたが、ここで一言だけ

「自分が探偵やったり色々しながらも、こ
うして無事に卒業出来るのも、総ては一足早
う幼なじみを卒業し、嫁さんになってくれた
服部和葉さんのおかげやって思うてます」

オレがアカン時は叱ってくれて、ピンチの時
は護ってくれた、めっちゃカッコええオンナ
やねん

彼女に、一番深く感謝をして、終わりたいと
思います

「ホンマに、ありがとうございました
そして、誰よりも愛してます
以上
20××年3月9日
改方学園高等部 3-A 服部平次」

書状を校長に手渡して、挨拶をしてオレが
席に戻ろうとすると、クラスメイトが一斉
に起立した

「ありがとうございました」

悲鳴と拍手喝さいと混乱する体育館の中を、
みんなが声を揃えたのを合図に、オレらは
一斉に逃げ出した

格技場まで和葉を連れ、みんなで立て篭もる

「時間ないねん、写真、撮るで!」

ワケがわからんと言う和葉を真ん中にして、
オレはその隣に陣取った

クラスメイト、先生、部活の仲間が集合する
いつものモデルの時のカメラマンさんが待機
しとってくれて、すぐに撮影が始まった

「和葉ちゃん、卒業証書!」

見学に来てくれていたリエさんが言うので、
和葉と2人、服部和葉と書かれた卒業証書を
掲げた

一斉に歓声が沸いた
ホンマやの!と

泣き笑いのええ笑顔で写真が撮れた

「急な連絡でスマンな
6月の挙式披露宴の招待状と一緒に、今日の
写真、ちゃんとみんなに送るさかい」

おめでとう、とたくさん言われた和葉は、ぼ
ろ泣きやったけど、祝福を述べる側もめっ
ちゃ泣いてた

迎えに来た親父に連れられて、オレらは早々
に晃や翠と共に学校を後にした

「もう凄い騒ぎやで」

服部邸周辺に、もう騒ぎを聞きつけて人が
仰山集まってた

裏口から服部邸に入ると、工藤と姉ちゃん
が待機しとって、もう宴会の支度が始まっ
とった

「和葉ちゃん、服部くん、卒業おめでとう」

姉ちゃんがそう言うて、オレらにプレゼント
をくれた
大きなドナルドとデイジーや
和葉は大喜び

制服を着替えると、オレは会見の準備に入る
ホンマは夜と思うてたんやけど、予想より早
う人が集まってしまい、近所迷惑になると思
うてん

和葉に服は決めてもろうた
ブラックデニムに、Vネックの白とグレーの
重ね着風のTシャツとジャケット

不安そうな顔で玄関で見送る和葉にそっとキ
スしてから、玄関を出た

想像を超える取材陣に、唖然としつつ、オレ
は取材に答えた

「幼なじみと結婚しとるのは、事実です
昨年5月に入籍しました」

出来婚何やないか、とか、その手のトラブル
で結婚を急いだのかと言う下世話な質問も、
当然のように出て来た

「嫁さんと、その父親の名誉にかけて、それ
は完全否定、させてもらいます」

入籍を急いだんは、海外進学の手続き上、急
いだだけで、元々、高校卒業したら式を挙げ
一緒に渡英する予定でした

「ちゃんと、順序は違えてません
昨年の3月に、結納も済ませてましたし」

それは意外やったらしく、取材陣も驚いてた
結婚の決め手は、とか、どこが良かったんで
すか、とか、言う質問も飛ぶ

「和葉やから、としか言いようが無いです」

本人に逢わせてくれ、と言う声も飛んだ

「申し訳ないけど、今は無理や
まだ、入院中やし、もう少し、静にしとって
ください、お願いします」

その代わりとして、オカンが選抜した3枚の
写真を公開した

結納式の日の写真
挙式した日の写真

そして
あのモデルのバイトで撮影した1枚

白いワンピースに水色のカーディガンを羽
織った和葉と、それをバックハグしている
オレで、2人とも満面の笑みを浮かべ笑っ
てる1枚や

6月の挙式披露宴の際、何らかの形でお披
露目するので、当面の取材自粛を要請して
会見を終了させた

食い下がる報道陣の前に、工藤が出たんや

「すいません、今日は仲間内で祝う会なん
でそろそろ、解放してください」

笑顔でそう言う工藤は、更に言った

「和葉ちゃん?ええ、めっちゃくちゃ別嬪
さんだし、本当に良い子ですよ?花嫁姿?
期待していいと思います」

そして、真面目な顔で言った

「和葉ちゃんには、散々助けてもらってい
ました…だから、彼女には幸せになっても
らいたいし、そうなるべきだと思ってます」

服部邸内に戻り、和葉を抱きあげてキスを
した

その夜、オレらがモデルをしたブランドから
一斉に御祝い広告が張り出された

あの写真と共に、リエさんがメッセージを出
してくれたんや

-----------------------------
服部平次様
  和葉様
高校卒業、そして、ご結婚おめでとうござい
ます
親友の愛すべき子供たちが、どうやら一緒に
なるつもりらしい、と話を聞いて、いてもた
ってもいられなくて、逢いに行った日を、私
は今でも鮮明に覚えています
私の勝手で急なお願いにも関わらず、イメー
ジモデルを引き受けてくれて、一緒にお仕事
をする中で、スタッフ一同、色々な事を学ば
せてもらいました
お互いに支え合い、手に手を取って、様々な
苦難を越えて行く姿を見て、勇気をもらい
お互いを深く想いやって、慈しむ姿に、人と
して生まれた喜びを知りました
年若い2人ですが、2人が2人で歩んできた道
は18年を越えています
この先も、きっと手に手を携えて歩んで行く
事でしょう
たくさんの感謝と
たくさんの祝福を、スタッフ一同、心より伝
えたいと想い、メッセージを贈ります
「平ちゃん、和葉ちゃん
本当に、おめでとう、末永くお幸せに!
2人の活躍を心よりお祈りしています」
生まれたばかりの夫婦の幸せを願って
20××年3月9日 Rie&Staff一同
-----------------------------
メッセージには、リエさんとスタッフ一同
が集まって、御祝いメッセージを掲げて笑
う写真も添えてあった

その夜、府警のメンバーも親父を筆頭に続
々と顔を見せて、服部邸は大騒ぎやった

一番のサプライズは

「お父ちゃん!」

おっちゃんは、車いすから娘を抱きあげた

さすがやな
和葉、腕と脚に器具を付け取るから普段よ
り少し重いのに

「和葉、おめでとさん」

そう言うた父親に、泣いて笑顔を見せた

父娘の様子に、オカンを筆頭に女性陣は全
員、大号泣
いや、ちゃうな
大滝ハンにつられて、数名泣いてたな

オレと和葉は、翠や姉ちゃんが製作したと言
うケーキをお互い食べさせあうと言う、恐ろ
しい風習をさせられて

みなさんのご期待にお応えして、和葉の口元
に残ったクリームは、オレが直接美味しくい
ただいて

卒業式の映像も流されて
もうこれ以上の恥は無い、と言うくらいに、
祝福されて、からかわれた

オレと和葉は、戻らなアカン時間やった
2人で、集まった面々に、挨拶した後、親父
が口を開いた

「ここに居る全員に通達や!
本日以降、平次はもちろん、工藤くんや晃の
窺わしい現場を抑えたモノは、オレと遠山に
即時報告するんや、ええな!」

え、オレらも??と言う工藤と晃を差し置い
て、おっちゃんも、速やかに報告せよ、と言
うた

おう!と言う威勢のええ声と拍手喝さいの後
更にオカンが追加した

「和葉ちゃんと平次の結婚式当日は、何が何
でも関西エリアの平和は護るように!
間違っても、新郎新婦の父親が居らんとか、
仲人が居らんとか言う事態は避けるんや!」

そう、仲人は、生まれたばかりのオレらを抱
っこしたと言う大滝ハンが務める事になって
んのや

オカンの声に、みんな引き攣りながらも、頑
張ります、と答えた

オレと和葉は中座して、後は工藤達に託して
裏口から病院へと運ばれた

「和葉、卒業おめでとう」
「平次も、卒業おめでとう」

パジャマ姿でベッドに座る和葉にキスをして
その掌にお願いされたモノを置いた

学ランの第2ボタンと、3年間使った名札

和葉からは、真新しい服部姓の名札を貰い、
今日の挨拶はそれをつけてやったんや

「おおきに」

にっこり笑った和葉を脚の間に抱えて、オレ
は漸く長い1日を終える

「これで、漸く堂々と歩けるな」

そう言うと、うん、と頷く和葉

外でも、うちの嫁、と言える事が嬉しくて、
今日は会見中、頬が緩まんようにするんがめ
っちゃ大変やったんや

「私は、うちのダンナさんって言えばええの
かな」

恥ずかしそうに言う和葉に、オレは完全に、
ノックアウト
何でもええわ、と言うて、和葉を抱き寄せて
キスをする

んー、良いところでアイツらは、と思うけど
さっと離れて、和葉をベッドへ、オレはその
傍の椅子に座って待機した

大荷物と共にやって来たのは、オカンらと、
おっちゃん、親父、工藤と姉ちゃん
翠と晃に留守番頼んでやって来たと言う

「え?まだ続いとんの??」
「そうやねん」

どうやら翠や晃の兄や姉、家族まで呼ばれて
そこへ工藤の両親と姉ちゃんの両親も来たも
のだから、大宴会になっとるらしい

「うちの親たちは明日来るって」

そう言う工藤と姉ちゃんは、ちゃっかり腕を
組んでいた

おっちゃんは、泊まって、夜中ずっとオレと
喋り倒して、翌朝仕事やと帰って行った

「6月の式までは、渡英準備と和葉のリハビ
リで精いっぱいやろな」

そう言うたオレに、英国の知り合いの刑事や
何やと連絡先を置いて行ってくれたんや

「オレも一度は現地に行く」

そう言うてくれた

待ってます、と言うたオレに、普通は迷惑や
言うんやで?とおどけたおっちゃんは、やっ
ぱり和葉の父親で

「まぁ、和葉なりに元気にしとってくれたら
後はええわ」

そう和葉に言うて、またな、と帰って行った

その後、和葉が風邪をひいてしもうたりして
少しだけ延びてしもうたけど、和葉が無事に
退院出来たんは、ちょうど桜も見頃な季節で

オレは和葉を車に乗せ、桜めぐりを楽しんだ

「昨年の今頃は、結納式したりしとったんよ
ねぇ、確か」
「せやなぁ」

和葉に腕を貸して、ゆっくりと歩く桜並木は
圧巻や

通り過ぎる人から、おめでとう、と言われたり、奥さん退院出来て良かったなぁ!とか言
われて、和葉と2人、恥ずかしい思いもしたけれど、嬉しかった

漸く、歩き出せたような気がして

和葉の脚にはまだ器具がついとるけど、でも
当初の絶望的な状況からは想像も出来んくら
いの回復ぶり

リハビリの先生からは、和葉が居る日はみんな凄く張り切るのよ?と言われたんや
小さな子から高齢のじいちゃんばあちゃんまでが、和葉、和葉、やねん

病院の中では、オレは和葉ちゃんの旦那さん
あ、もしくは、和葉ちゃんのへーじくん、な

みんな、入院当初から知っとる人も多くて、
退院する日は派手に祝われて、リハビリやら
何やらで通院する時も、よう声をかけられて

「兄ちゃん、実物の方がイケメンやのに、何
でテレビ映り、悪いん?」

なんて、喜んでええのか、哀しむべきなんか
ようわからんことも言われるけど

ええねん、これで

いずれ、公人になるんや

もしかしたら、和葉の方が高給取りになって
立場が逆転する事もあるかも知れへんし

この春は、和葉ちゃんの旦那さんとしての時
間を満喫しよう、と思うオレやった

旅立ちまで後数ヶ月
残り少ない日本での生活を、和葉と2人満喫しよう

隣の和葉のペースに合わせて、のんびり桜の下を歩きながら、オレは青い空を見上げた

For you 完全版
Fin.

7th heaven side B

Ame&Pixivにて公開した二次創作のお話を纏めて完成版として倉庫代わりに置いています^ ^

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