For you 完全版_1

序章: Step by step 

「服部、和葉ちゃんにお願いしたい事があるんだけど」

工藤から、オレではなく和葉へSOSの電話が
入ったのは、モデルの撮影が終わって帰阪し
て間も無くの事やった

「ん、ちょぉ待ってな」

偶然、遊びに来ていた和葉に携帯をそのまま渡す

「はい」

和葉の応答を聞いている限り、姉ちゃんと何やらあった様子
和葉は、電話を持ったままオカンの元へ、パ
タパタと走って行く

「おばちゃん、春休みやし、蘭ちゃんとコナ
ンくん、数日ここへ泊めてもらってもええ?
私も一緒に」
「ん?もちろんええよ?」

ありがとう、と笑顔を見せて、電話口の工藤
に、蘭ちゃん連れて来たらええと言う

「蘭ちゃんと大喧嘩したんやって」

電話を終えると、和葉は聴いたばかりの事情
をオレに説明した
工藤のSOSに、どう応えるつもりかも

「わかった、オレも協力する」

ありがとう、と、蕩けるような笑顔を見せた
和葉の頭を、くしゃり、と撫でた

「お手並み拝見、やな」
「任せとき!ええ塩梅にするから」

翌日、すっかり元気のない、東の名探偵カッ
プルを迎えに行った

「蘭ちゃん!」
「和葉ちゃん…」

姉ちゃんは、和葉を見るなり、抱きついて泣
き出してしまった

「嫌やわぁ、蘭ちゃん、そないに私の事、好
きやったん?」
「…うん…大好き…」

そう言って泣き笑いする姉ちゃんに、和葉は
苦笑していた

「私も、蘭ちゃん大好きやで?でもなぁ、こ
こじゃ誤解されるから、行こうか?」

ようやく泣きやんだ姉ちゃんの腕を組んで歩
き出した
呆然としていたコナンとオレは、和葉の後ろ
からついて歩く
黙って静かに歩く工藤は、ひどく傷ついてい
る様子やった

「大丈夫や、和葉に任せてみ?」
小声で伝えたオレに、黙って頷いた

「今日はたくさん、話、しような」
「うん」

オレの家に行く前に、和葉の家に立ち寄った
和葉の荷物を取りに行く口実で、や

オレは、コナンとゲームすると言って、居間
で待っていることに
和葉は、姉ちゃんを連れて自室へ入り、ドア
を少しだけ開いた
また泣き出した姉ちゃんの声が響く

「…ごめんね、ぐずぐずしてて…」
「ええよ、私が泣いていた時も、蘭ちゃんは
こうしとってくれたやろ?」

ぎゅっと抱き締めて、泣きやむのを待つ和葉
泣きやんだ姉ちゃんが、少しずつ、語り出す

受験時期を迎えても、事件を追って戻らん工
藤に、もう二度と戻って来ないのではと不安
になって、最近、電話があっても中々本音で
話せないと言う

そこへ来て、事件が起きた

工藤が覚悟していた通り、工藤家に届けられ
た、留年決定通知だ

一緒に進級出来る方法を探そう、と言う姉ち
ゃんと、自分など待たずに、早く自分が歩く
べき道を走れ、と言った工藤は、お互いが想
うほど激しくすれ違って行ったらしい

「蘭ちゃん、今はとにかく、蘭ちゃんは蘭ち
ゃんの夢を追って頑張ろう?」
「私の…夢?」
「そうや、工藤くんの事はちょっと置いてお
いて、蘭ちゃんだってなりたいものとか、や
りたい事、あるやろ?」
「うん、ある」
「まずはそれを追って頑張ろう?
工藤くんは心配ない、平次のライバルやで?
蘭ちゃん放り出したまんま終わりにするよう
な男やないと思う
遅れてでも戻って来て、自分で自分の道を追
いかけるはずや」

「そう…かな」
「蘭ちゃん置いてそのまんま逃げ出すような
男やったら、平次のライバルだって私、絶対
に認めへんよ?」
「ふふふ、そうだよね」

「事情があって、来られないだけでちゃんと
考えているはずやで?
ネックレスにも、ちゃんと意味、あったんやろ?」

姉ちゃんはしっかりと頷いていた

「もしな、どうしても工藤くんに逢いたくな
ったら…コナンくんをな、ぎゅっと抱きしめ
ていればええよ」

コナンくんは、蘭ちゃんの小さい騎士やから

「うん…そうだね、そうする」
「頑張ろうな?蘭ちゃん」

俺と工藤(コナン)は和葉の部屋のすぐ外で
訊いていた

和葉はコナンの秘密をもう知っていて、それはオレらの想像よりも早く、意外な形で、知られていたんや

でも、和葉はオレらを問い詰めんかったし、
誰にもその事実を話さんかった

今後も、現在のスタンスは変えないと言う
それが一番やろ?言うて

せやから、和葉は今でも事情を知らずに待ち続ける姉ちゃんに、寄り添って居る

和葉が一生懸命言葉を選んで、工藤と姉ちゃ
んと両方を想って説得しとるのがちゃんと聴
こえた

「和葉ちゃんに大きい貸しが出来た」
工藤はぽつんと言った

「蘭は優秀だから、俺の事待つだけじゃなく
て、ちゃんと蘭のやりたい事、追って欲しか
った
最近ずっと俺の心配ばっかりしていたから」
「まぁ和葉と違うて、飛び出して行くタイプ
とちゃうからなぁ」
「あぁ、それにしても和葉ちゃん、よくわか
ったなぁ、俺が言いたい事全部当たってる」

さすが西の名探偵の女だな

その後、何事もなかったように姉ちゃんはい
つもの姿を取り戻した

和葉の家を出る前、工藤を捕まえて、和葉が
何やら耳打ちすると、工藤が真っ赤になっと
った
オレはかなり不満、イライラしとる

「何こそこそやってたん?」
「え?…あぁ、コナンくんにな、今度、蘭ち
ゃんが落ち込んでいたら、『俺が味方してや
るから頑張れ』って言ってあげて、って言う
たんよ」
「…え?」
「それと、黙って抱き締めて一緒に居てあげ
てな?小さい騎士さんって」
…だからアイツ、あんなに真っ赤になっとっ
たんや

「言霊やで、平次」
「言霊?」
「私が蘭ちゃん元気に戻せたんはな、言霊や
ねん
私が平次に言われて元気付けられた事、平次にしてもらって、勇気付けてもろうた事を、
分けてあげただけやもん」

恥ずかしくて聴いてられへんような事、さら
っと言ってニコニコしとる隣の女

俺、一生勝てへん気がするで…和葉

とりあえず、逃げられんように手をしっかり
繋いで歩く

だって、姉ちゃんとコナン、しっかり手を繋
いで、楽しそうに歩いてるからなぁ
負けるわけにはいかんやろ?

家に帰ると、オカンが戻って来て、和葉と姉
ちゃんと賑やかに台所で騒ぎ始めた
その様子を、ほっとしながら見ている工藤と
気分転換にゲームに興じたオレ

珍しく、食いついて来た工藤と、僅かな間やけど、事件からも何からも開放され夢中にな
った

姉ちゃん達が帰った後、オレ達はまた受験生
の生活に戻った

オレも事件と受験生生活を掛け持ちするよう
になった

穏やかな春の訪れを感じ始めた頃
久しぶりにオカンが寝込んだ

元々、気管支が弱く、熱を出す事も少なくな
いオカン

オレは地方に出ていて、親父が和葉にSOSを出したと連絡を受けた

すぐに、親父とオレ宛てに、和葉から服部邸
に到着したから、心配するなとメッセージが

部屋を換気して、おばちゃんの部屋の加湿器
とかもちゃんとして、お医者さんの診察も終
わったから、と続けて届いた

和葉が傍に居てくれるなら、オカンは大丈夫
オレは急ぎ事件を片付けるべく奔走した

帰阪する途中も、水分摂ってお粥さん食べたよ、とか、よう眠っとるよ、とか、容体を報
せるメッセージが届いた

オレをと言うより、親父を安心させるための
メッセージや

親父はあの強面で未だにオカンにメロメロな
んや
オレも親父も、誰も服部家では、オカンに敵
わへん

以前、オカンに悪態ついたオレは、和葉にしばかれた事がある

「私にとっては、もはや育ての母でもある大
切な存在や!
初めて女の子になった日も、大事な事を教えてくれたのも、全部、おばちゃんや」

アンタ、私の大事な人になんて事言うてくれるんや💢ケンカ売ってんの?

「おばちゃんは、息子をちゃんと愛している
人やし、私のこともそれ以上に愛してくれる
ホンマに凄い人や」

見習うべき、尊敬している女性やねん
私もいつか、そう言ってもらえるような大人
になりたいって、そう、思っとる

「そんな人を、アンタが傷付けるような真似するんやったら、そのケンカ、私が受けて立つよって💢」

駆け付けた親父達までビビる程、和葉の怒り
は凄まじく、仁王立ちの和葉に、オレが土下
座で詫びるハメになったんや

(オレの愛情には疎いクセに、オカンらからの愛情には敏感やねんな💢)

ふてくされたオレは、親父達に憐れまれた
怒らせたらアカンねん、と
生命が惜しければ、逆らうな、と

事件解決後、送って貰うて最短コースで帰阪するオレ

タブレットを立ち上げて、資料を整理したり
和葉からの報告書が置いてある共用ファイル
にアクセスして確認する

数日前、オレと和葉に先日のモデルの破格値
のバイト料が振り込まれた
その時、オカンがオレと和葉に新しい通帳を
用意して、和葉に言うたんや

「海外でいきなり全部やるのは難しいと思う
から、まずは練習や」

春から、和葉に家計簿をつけなさいと言った
んや
それも、自分のお小遣いやなくて
オレと2人で使うお金を、と

双方の親から、高校卒業までは、お小遣いを
払うと言われている
オカンは、バイト分は、それとは別に管理し
ろと言うのだ

「せやな、学費やら向こうでの生活費やら、色々かかるし、結構な金額が動くからな」

和葉は、パソコンで管理ツールを作ってみた
りして、そのデータをオレやオカンにいつで
も見えるようにしてくれてん

新しい口座に、キリのええ数字で貯金して、
この春から、一緒に使うものはここからお金
を出すことにしたオレら

新しい財布を貰って、そこに共用のお金を入
れておく
参考書や受験勉強に使うテキストは、出来る
だけ共用にして、使うようにした

大学受験にかかる費用、渡航費や諸経費を調べて2人で驚いたんや
親父達にこんなにたくさん払ってもらってい
たんや、と

「平次も和葉ちゃんも、これでもまだ、かか
ってへん方なんやで?2人共、塾に行ってへ
んしなぁ」
オカンはそう言って笑った

「ええ勉強になるやろ?でも、大事な事なんや…身につけておいて、損はないし、頑張っ
てな?」
和葉にそう言うたオカン

確かに、勉強になった
和葉と2人、これからかかる予定の費用も算出してみたんや
算出した額を見て、愕然としたオレらに
「大丈夫、心配せんでも何とかなるから」
工夫次第で何とかなるもんやで?と、笑った
オカン

「まずは揃って、合格するところからやで、2人共」
頑張ってな、と言うてくれて

和葉は、期待に応えるためにも、自分のため
にも、精一杯努力する
今の私にはそれしか出来ないからと言うた

それにしても、と思った
子育てには金がかかるとは聞いていたけれど
ホンマやな、と
いつかの将来のために、オレももっと
しっかりせんと、と思った

家に向かう途中、和葉とオカンが好きなアイ
スを買って歩いていると、親父の車が横付け
された

帰ると言う親父の車に乗り込むと、和葉が好きなビーカープリンの箱が見える

家に到着して、かずはー、と呼んでも返事が
無くて、オカンの部屋に行った親父が呼ぶ

親父が指差した先に、苦笑するオカンと、そのオカンの布団に半分入って、オカンの片腕
に甘えるように身体を丸めて眠る和葉が居た

「こら、和葉、オマエはオカンに甘えてんの
か、看病しとんのか、どっちや」

ふえ、と起きた和葉が、あわあわとする
ゴメン、おばちゃん、と平謝りして、慌てる
和葉の髪を、オカンが撫でた
和葉ちゃんが居ったから、安心して寝てられたわ、と

オカンも和葉に身支度してもろうて、4人で
食卓を囲む
オカンも和葉のお粥を食べお茶を飲み落ち着
いた様子
和葉のお喋りを中心に、普段より賑やかな食卓に、無愛想な親父まで、心なしかウキウキ
しとる

おっちゃんは、帰れそうに無い、と連絡があり、和葉はそのまま泊まる事に

親父とオカンが揃う家では、何をどうする事
も出来んので、オレは和葉と居間で勉強して
ソファで眠る事にする

荷物を取りに自分の部屋に入った時、和葉を
捕まえてキスをした

「お帰りなさい、平次」
「ただいま、和葉」

ぎゅっと抱き締めて、唇を塞ぐと、ぎゅっと
目を瞑るのが可愛ええな、と思う
は、恥ずかしい
真っ赤になって、逃げ惑う和葉を抱えて顔を
首筋に埋めると、めっちゃ温い
「あー、温い
めっちゃええ匂いもする」
柔らかいなぁ、と言うと、エロいと怒られる
けど、めげない

「さ、行かないと、親父達に笑われるし」
柔らかな頬にキスをして、和葉の髪を直してやって階下に降りた

オレらが受験勉強に取り掛かると、親父があ
たふたと台所と寝室を往復する
和葉が、自分がと言うと、いいんだ、と笑う
こんな時やないと、静の世話、出来んからと

途中、和葉がオカンの着替えを手伝うて、後は親父に任せ、オレらも眠る事にした

頭合わせで眠る和葉の頭をポンポンして、おやすみ、と言うて目を伏せる

オカンが床上げをしたのは、それから3日後
の事やった

第1章へ
to be continued 

7th heaven side B

Ame&Pixivにて公開した二次創作のお話を纏めて完成版として倉庫代わりに置いています^ ^

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