Stay with me 完全版_8
第7章 ふたり
試験を終えて、一緒に遊びに行こうと言うツ
レ達と別れ、ひとり家路に着いた
和葉が居れば、くだらんお喋りに適当に突っ
込み入れながら、帰るんやけどなぁ〜
ふとそんな事を思いついた自分に、苦笑した
遣り切れへん事件など、ゴマンとある
どんなに最善を尽くしても、助けられへん時
かてある
だって、オレらやってスーパーマンとちゃう
んやから
わかっとる
頭では、ちゃんとわかっとるんやけど
事件の謎を解いてる時、オレの思考と感情は
最大限の力を発揮して、暴走しとるんや
時にはそれを止められへん時もある
元の、ただの男子高校生その1に還る方法が
わからんようになってまうねん
自分は、何処へ還るんか
何処へ還るべきなんか、迷子になんねん
アホみたいな、ホンマの話
いつもやったら、和葉に戯れて
酷い時は、何もせんからじっとしとけ言うて
和葉を抱えて、ぽかすか殴られながら、少し
ずつ、自分を取り戻すんやけど
道標は、現在、海の向こうの遠くの遠くで、
ひとり奮闘中
触れられる距離には、居らんし
気軽に電話出来る状況でも無い
少なくとも、後1週間は、堪えなければなら
ない
一生懸命頑張ってる和葉の邪魔はしたくない
そう思いながら、縁側で、お気に入りの作家
の新刊を読みつつ、寝転んでいたオレ
いつの間にか、微睡んでいたんか
柔らかな馴染みの香りがして、柔らかな掌が
指先が、オレの髪を梳いたり、頬を撫でたり
しとる気がした
あぁ、和葉にこんなんされたら、ぐっちゃぐ
ちゃな自分の気持ちも、少しは整理、されん
のになぁ
夢の遠くで、ボンヤリとそう思うてる間に、
柔らかな熱が顔に押し当てられる
起きてや!つまらん!
唇に熱を感じて目を覚ます
へーじ、と呼ぶ声
大きな黒い瞳が反対側から覗き込む
居ないとわかっていても、声にした
かずは?
もうちょっとだけ、眠ろうな
遠くに響く甘い声に
オレの目を塞ぐ柔らかな掌に
意識を手放した
叶うなら、この掌が和葉の掌でありますよう
「平次」
オカンの声がして、目が覚める
「ん」
お母ちゃん、お客様迎えに行って来るよって
和葉ちゃん、起こしておいてや
わかった、と言いかけて、和葉?と思う
「和葉はまだ帰国してへんやろ」
「ほな、アンタが握ってるその手、誰の手や
言うつもりや」
手?
自分の左手が握ってるんが、タオルや無いと
気が付いて先を辿ると、仰向けですうすう寝
息立てて寝てる和葉が居った
うわぁっと思って飛び起きるオレに、妖艶な
笑みを浮かべたオカンは、言い捨てた
「どんなに美味しそうでも、今日は食べたら
あきませんよ、お客さんも来るよって」
「んなっ!!」
おほほ、と笑うと、お客様が来る前までには
起こしてあげてな
夕飯を先に食べておきなさい、と言うて出て
行った
オカンを見送り、戻っても爆睡しとる和葉の
寝顔を眺めていた
かずはー、かずはちゃん
そう呼びかけて、その柔らかな頬を撫でる
耳に触れ、髪に触れ、キスをした
「こら、起きろ、和葉」
ふぇ、と言うて目を覚ました和葉に、いきな
り深いキスをした
柔らかくて頼りない唇の感触も、滑らかな白
い肌も、確かに和葉や
苦しそうに喘ぐ吐息さえ奪うようなキスをし
て、和葉に覆い被さった
「…はよ」
ぷはっ、と言う感じで、頬を真っ赤にした和
葉に、今度はゆっくりと丁寧にキスをした
和葉の腕がオレの首に回される
その感触に、幸せで眩暈がしそうやった
欲しくて、欲しくて、たまらんかった存在
帰って来てくれと、ずっと願っていた存在
抱き起こして、横抱きにして抱える
「何や、オマエ、小っさくなったんか?」
「え?そんなワケ無いやろ」
ぎゅっ、と抱え込んで、やっぱり出発前に抱
き締めた時より小さいし軽い、と思うた
でも、この細っこい身体でよう頑張って来た
なぁ、と思う
「よう、頑張ったな」
「うん、めっちゃ頑張った
平次も、よう、頑張ったね、お疲れさん」
そう言うと、向日葵のような笑みを浮かべて
ちゅ、と頬にキスをしてくれた
それだけではない
ぎゅーっと抱きしめてくれたんや
逢いたかった
こうして、平次にくっつきたいーって
そう思うて、全力で帰って来たんやで?と言
うてくれた
「和葉
オレな、初めて事件関係者に、彼女が居る、言うてしもうた」
抱きついとる和葉の首筋に顔を埋めての告白
あるカップルに起きた悲劇
待ち合わせ場所で待っていた彼女が
幸せそうな顔をしとったから
と言う不条理な理由で、通り魔に殺されてん
被害者の彼氏は、泣く事も出来んまま
茫然としながら、亡骸を抱き締めて絶叫した
あの、悲壮な叫び声が、耳から離れん
彼女の両親が駆け付けるまでの間
ぽつり、ぽつり
彼女との話を聞いていた
中学の同級生らしい
ずっと、好きやった、と
でも、心地良い親友関係を壊したく無くて、
社会人になるまで、告白すら出来んくて
「彼女になってもろうて、付き合い始めてまだたったの3ヶ月やねん」
幸せそうな顔、してたらアカンのか?
漸く、漸く、一緒になれたんや
今年、結婚するつもりやってん
今日は、一緒に指輪、見に行く予定やってん
幸せに、決まってるやろ?
恋人や無かったけど、中学のガキの頃からずっと、オレなりに大事に護って来たんや
どうして、アイツやねん
幸せそうな顔しとる奴なんて、街中にたくさん居るやんか
「自分、彼女居るんか?」
居る、と言うたオレに、そいつは言うた
いつまでも、居てくれるんが当たり前と思うたらアカンで、と
傍に居て貰えるんは、奇跡や、思えって
奇跡の連続で、毎日が在るんやでって
「後悔せんように、全力で大事にしたれ」
喧嘩出来るんも、愛し合えるんも
お互いが元気で、生きとるから出来る事や
オレは、恋人として過ごせた時間は僅かやったけど、親友期間に2人で色々過ごせた時間は全力で楽しんだから
愛した事、後悔してへん
そう言うた後、一筋だけ、涙を落とした
「待たせて、スマンかったな
怖かったやろ、寒かったやろ、寂しかったやろ?もう、大丈夫や、一緒に、帰ろうな」
そう言うて、冷たい彼女と一緒に帰って行ったその人は、翌日、還らぬ人になった
あの日、彼女は初めて、自分の身体に新しい生命が宿っとることを知り、1番に彼氏に直接報告したいと、待っていたらしいねん
幸せそうな顔しとるの、当たり前やんか
彼女の方かて、ずっと好きやったんや
漸く、彼女になって
もうじき、妻になって
そして、母になったんや
1番、幸せな夜になるハズやってん
彼女にも、彼氏にも
遺品が届けられ、妊娠中やって知らされた彼氏は、彼女との思い出の写真を握り締め、空へと飛んでしもうたらしい
「その通り魔、追いかけてたんや
オレらがもう少し早く、犯人を捕まえられてたら、あの2人には、違う未来があった」
後、もう少しやったんや
絞り出したオレを、和葉がぎゅっと抱き締め
てくれた
せやね、惜しかったな
でもな、平次
お父ちゃんや、大滝ハン、言うてたよ
その人、平次に感謝しとったよ、って
犯人、すぐに捕まえてくれておおきにって
これで、彼女は安心して眠れるって
平次に、話を聞いてもらえて良かったって
「私達に出来るんは、ひとつだけや
毎日に感謝して、毎日、元気に喧嘩して、毎日ちゃんと丁寧に生きる」
それだけやで、平次
「離れとる間、思ったんや
喧嘩は離れていても出来るけど、キスやハグは傍に居らんと出来んやんって」
せやから、行ってらっしゃいとお帰りなさいの時は、どんなに喧嘩しとっても、しよう
約束や、平次
「何でケンカ、前提やねん」
「せやかて平次、しょっちゅうやん」
ふふふ、と笑う和葉にキスをして、おもいっきり抱き締めた
せやな、喧嘩中は、普段の倍、濃厚にするっちゅう事にしよか、と返して
心の中で、還らぬ人達へ誓う
言われた通り、全力でコイツと歩いて行くと
真っ赤になってあほ、と言う和葉に、せや、と思い出したオカンからの伝言を伝え、オレ達はドタバタと支度を始めた
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to be continued
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