Stay with me 完全版_2

第1章 和葉の秘密

「オレの和葉」
「手を離したら、殺すで」

どんな言葉も、私は嬉しかった

だから、ちゃんと確かめたかったんや
平次が、どんな想いでそれを言葉にしたのか
ただの、大事な幼なじみに向けたんか
それとも

はぁ、とため息を吐くのも少し苦しい
私はどうやら風邪を拗らせた様子

昨日、私が目覚めると、平次の部屋に寝かさ
れとったんや
私は平次のベッドの上、平次は床に敷いた布
団に眠っとった

「目、覚めたか、アホ和葉」

そう言うと、私の額のタオルを外し、額や頬
首筋に触れ、んー、まだまだやなぁ、と渋い
顔をして、スポーツドリンクをちゃんと飲ま
せてくれた
氷枕を入れ替えて、額のタオルも差し替えて
くれて、布団を引き上げてくれる

「あー、もう
オマエはホンマにしょーもないなぁ
熱出すたんびに、泣いて、どうせ手も冷たい
んやろ?」

そう言うと、私の滲む涙をタオルで拭いて、
冷たい手をぎゅ、と握りため息を吐いた

「なぁ、どうせやったら、下の方がええや
ろ?支度してくるから、そのまま布団から出
るなや?」
そう言うと、平次はバタバタと階下に降りて
行った

暫くして、部屋に戻って来た平次が、私を毛
布に包んで抱き上げた

「だ、大丈夫やって」

急にふわり、と身体が宙に浮いて慌てたけれ
ど、まだ身体の自由が利かないのと、階段で
危ないと言われると、動けず

ええ子やから、静かに掴まっとき、と言う平
次に頷いて、平次の首にそっと腕を回した

「よし、そのまま掴まっとけ」

よいしょ、と言うと、そのまま階下の居間へ
運ばれて、ソファの一辺へ横にされた
氷枕に頭を沈め、額にタオルを置かれると、
布団を掛けられた

「ここやったら、オカンや親父達が通るし、
風呂や洗面所も近いから、便利やろ?」

平次も、頭合わせの一辺に自分の寝床を用意
して、大あくびした
伸びをして、横になると、私の頭をぽん、と
叩いた

おやすみ、かずは

そう言うと、灯りを最小限にしてくれて、す
ぐに健やかな寝息が聞こえて来た

直ぐ傍に平次が居る
それだけで、安心する自分に、涙が出る

こんなんやったら、私は

泣いたら平次が心配して起きてしまうから、
私は必死で涙を拭うた

私には、平次にまだ話してない秘密がある

早う元気になって、ちゃんと平次に言わなア
カン事があるんや

もうすぐ、私は大阪から英国へ向けて旅立つ
予定やねん
とりあえず、今回は3ヶ月の短期留学
大学は、海外進学を目指す事にしたんや

それを決めたのは、今年の春
平次の初恋がわかった、あの京都での事件の
少し後の事

将来、平次やお父ちゃん達を手助けできるよ
うな仕事したいねん
そのためにも、語学力もつけなアカンし、他
にも色々勉強せなアカン
だから、決めたこと

恋人になれんでも、平次と離れるなん想像も
出来んようなアホな私に出来ること言うたら
仕事面でパートナーになる以外無いやろ?

留学希望を伝えたのは、平次が居らん日の服
部邸やった

お父ちゃんとは、その場で大ゲンカ

平ちゃん頼らず、短期留学成功させたら考え
たる、言われたから、私は言われた通りに、
平次にはまだ、何も話してへん

おばちゃんと、おっちゃんには、自分で言う
から、平次には黙ってて、言うたん

私の短期留学を知っとるのは、親友の翠と晃
くんだけや

あと、もうひとりだけ

工藤くん

海外在住の家族が居て、自分も渡航経験があ
るような知人、簡単に思いついたんは、工藤
くんだけやったんよ

コナンくんを拝み倒して、工藤くんとの連絡
係をお願いしたん
留学先の選定を手伝ってくれへんか、頼んだ
んや

「何で、相談相手、オレなの?」
「平次の、ホンマのライバルやからや
せやから、絶対、どーでもええ所なん紹介せ
んでしょ?」
「ふっ、参ったな、そんなこと言われたら断
れねーし」

服部には、出発前に必ず言えよ?と言うのを
忘れない、優しい工藤くんやった

そうして私は、留学先を決め、さらに工藤く
んが知り合いの家にステイさせてもらえるよ
うに手配してくれた

「ホンマにおおきに、工藤くん」
「いや、大した事してねーし
あと、この間送った地図、ちゃんと頭に入れ
ておいてくれよ?赤くマークしたエリアは絶
対、近寄るな」

服部がついている訳では無いのだから、身辺
には自分で細心の注意を払うように、と散々
注意された私

そんなこんなで、もう出発まで半月を切って
しもうたし、そろそろ言わなアカンのやけど

何度か言おうとしてん
でも、平次が変なことばっか言うてて、言う
チャンスが無かったんや

例え3ヶ月とはいえ、平次と私にとってはこ
んなに長い時間離れていたことは無い未知の
領域

ムダにモテる平次のこと
私が居らんようになったら、ハーレムやね、
きっと

出発前は、ケンカなんしたくない
少しでも、長く一緒に時間、過ごしたい
願うのは、それだけやのに

最近、様子がおかしな平次に、どないしたん
か聞いたら、私のせいやって言われた

一生懸命、邪魔せんように、してたんに

それが、昨日のことや

あまりのショックに、家に帰り着くなり号泣
してしもうた私

最近、あんまり食欲も無くて、ひとりの時は
ちゃんと食べられへんかったのもあって、少
し体調を崩しかけとってん

家の電話に出ようとして、力尽き廊下に倒れ
込んだところで、私の意識は飛んでんのや

おばちゃんが言うには、私と連絡が取れんと
心配した平次が家に来てくれたらしく、倒れ
とった私を背負って服部邸に現れたらしい

これからその傍を離れる、言うんに、そんな
相手に全力でお世話になってもうて、どない
すんねん、私のアホ

ちゃんとせなアカン
おばちゃんらにも、迷惑かけてしもうてるし
さっさと治さんと

ゆらゆら揺れ動く意識がゆっくりと降下して
行くのを遠くに感じながら、私は自分の意識
を手放した

翌朝、目を覚ますと、おばちゃんと平次の顔
が視界いっぱいに広がって、びっくりした

何遍呼んでも私が目を覚ます気配が無くて、
2人で覗き込んでた、と言う

「おばちゃんと平次、ホンマによう似てるね
ぇ」

身体を拭いてもろうて、着替えを手伝っても
らいながら、おばちゃんに言うた

「せやろ?でも、眉とか体躯とかは平蔵さん
似やねん」
「せやね、平次、おっちゃんより背が高くなるやろか?」
「ギリギリ、言うところやない?
最近またジリジリと伸び始めてはおるみたい
やけど、中学の頃の勢いは無いからな」

遠山さんを超える事は難しいな、と笑うおば
ちゃん
おっちゃんより、お父ちゃんの方が背が少し
高いねん

「これでまた、女の子達が騒ぐなぁ」
「あら、和葉ちゃんはモテへん平次が好き
なん?」

いや、そんな事は、その

真っ赤になった私をソファに寝かせると、お
ばちゃんが布団を掛けてくれた

「まずは、ちゃんと養生して、身体を治し?
出発まで時間もあまりないんや
少しでも、一緒に過ごしたらええよ」

おばちゃんは、洗濯物を抱えて席を立つと、
入れ違いで平次が戻って来た

「プリン、食うやろ?」

まぁ、食わん言うても口に突っ込むけどな、
と言うと、にっと笑う

結局、雛に餌をやる要領で平次にプリンを食
べさせられて、お茶も飲まされ、薬も飲まさ
れた私はそのまままた眠りに落ちた

おばちゃんと、平次の手厚い看護と言うか、
お世話のおかげで、私は少しずつ回復し始め
ていたけれど、まだ、留守中の遠山家で起き
た出来事は知らんままやった

夕飯の時、ようやくおかゆさんを貰えるよう
になって、めっちゃゆっくりやけど、自分で
食べられるようになった私

そう言えば、携帯とかどこやったかな、と思
うてたら、平次が怒った

「オマエはまず、ちゃんと正常に戻るまで、
携帯とかそんなん遊んだらアカン」

おっちゃんから言われてんのや、せやから、
元気になるまでは没収や

「えー、そんなん誰かが連絡くれてもわから
んやんか」
「ええんや、とにかく、ちゃんと体調治すま
ではダメや」

そう言うて、最後はおばちゃんも、お父ちゃ
んに言われてるからダメやって言うので諦め
る事にした

「そう言えば平次、アンタ最近人気無いん?
ここ数日、ずっと家に居るし」

「おまえなぁ、」
呆れた顔をした平次

「せやかて、いっつもどっか行こう、言うと
電話が鳴るやろ?なんかしよう、言う時やっ
て鳴るやんか」

でも、昨日も今日も平次はべったり私の傍に
居るし、その間に携帯をいじってる様子も無
かったんや

「平次、何か私にに隠し事、してへん?」

「そんなんしたくてもするヒマ無いわ」

平次はそう言うたけど、私は気付いた
コンマ数秒やけど、平次の表情でわかった

平次は、私に隠し事をしとる
それも、私に関係する事で

私の携帯を隠したんは、多分そのせいで
せやから、自分も携帯をいじらんようにしと
るんやと思う

「和葉」
「もうええ、わかった」
「和葉!」

私はそのままお風呂場を借りて、平次と距離
を置いた
ぐずぐず泣いたら、平次もおばちゃんも困る
やろうし

多分、悪気があってしとる事やなくて、私を
護るためなんやろうなって予想はつくから

でも、哀しかった

内緒にせなアカン理由が何にせよ、そんなに
気を遣わせてしもうた事が、情けなくて悔し
くてたまらんかったんや

こんなんで私、3ヶ月も平次と離れて大丈夫
なんやろか
余計な手間、増やすだけになってまうんやろ
かと、不安を覚えた

でも、もうお金も払ってしもうてるし、今更
取りやめる事も出来んし、したくない

自分で決めて、自分で始めた事や

最後までやり遂げて、出来る事なら平次に、
ちゃんとようやったって言われたい

いや、言わせたい
褒めてもらいたい

へちゃむくれやの、何なのと言われてばっか
りで、この間のかるたでさえ、オレが出てた
らオマエは決勝には行けんかった、と言われ
てん

いっぺんくらい、無条件で褒めて欲しい

そのために、準備かてそうとう大変な想いで
積んでたんやから

そう、想うのは、私の我儘なんやろか

湯船に浸かり過ぎて、具合が悪くなってしも
うて慌てて出た

それがアカンかったのか、浴室を出たところ
でしゃがみこんでしまう
ギリギリ下着を穿いて、きっちりバスタオル
で身体を隠すんが限界やった

「…お、おばちゃん、居る?」

心細くなって、声を出してみた

着替えの寝巻代わりの浴衣を羽織り、立ち上がろうとしても出来ん
身体からどんどん熱が奪われて行く

「…和葉?」

大丈夫か?と言う平次の声に、思わず自分が
どんな姿かも忘れて泣いた

「へーじ」

硝子戸を開けて、飛び込んで来た平次が、手
あたり次第タオルで私を包むと運び出してく
れた

泣きじゃくる私に、おばちゃんも飛んで来て
急いで浴衣やら半纏を着せてくれた

平次がその上から毛布で私を包むと、両手に
カップを握らせた

「熱いから、ゆっくり飲め」

その間に、髪、乾かしてやるから、言うて、
ドライヤーをしてくれた

ありがと、と言うのもぐずぐずな私に、平次
は言うた

「もうちょっとだけ、大人しく待っとけ」

せやないと、おっちゃんがオマエを心配して
仕事に集中出来んようになってまう
だから、もうちょっと体調が整うまでは、オ
レも傍に居るし、オカンも居るから、と

アイスノンを目に当てられてて、顔は見えん
けど、横になった私の髪を撫でる手は平次の
手やってわかる

甘えっぱなしで、ホンマにアカンと思うけど
平次が言うとおり、とにかく体調を戻さん事
には何も出来んから

平次の承諾を得て、片手を借りた
寝るまでの間、ちょっとだけ貸して、言うて

平次の手を両手で握って、眠りについた私は
あっと言う間に意識を手放した


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to be continued 

7th heaven side B

Ame&Pixivにて公開した二次創作のお話を纏めて完成版として倉庫代わりに置いています^ ^

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