You're all surrounded [第6章−後編]

第6章 逮捕・後編

[3]
**2017年8月某日 ~降谷零の記憶**

「今頃、あいつら、どこに行ったかな?」

そうねぇ、真面目な2人だから、お墓詣り
とか、京極家へお礼に行ってるんじゃない?

「駆け落ちとかさ、何か無いのかな?」
「零さんじゃあるまいし、無いでしょ?」

うふふ、と笑う梓と、コーヒーを楽しむ

「でも、しっかりとリフレッシュ、して
来てくれると良いな💕」
今時、あんなに一途なカップル、見た事ない

「甘いぞ、梓」
「え?」
「オレは、そう簡単には行かないと思うぜ?
まぁ、とり、いや、服部の方は、ヒロインに
メロメロな事、自覚あり、と見てる」
でも、肝心のヒロインは、
「まだ、自覚無し?」
「あぁ、オレはそう見てる」
ええっ、と驚く梓

「オレも、降谷係長の意見に、一票!」
「あら、お帰りなさい」

途中まで、オレと蘭で追跡して、途中から、
黒羽に任せて来ました、と言う工藤だ

「黒羽?あいつは中森さんに会いに行っただ
けじゃねーのか?」
「そうね、青子ちゃんに会うつもりよ、きっ
とね💕」
ま、仕事はちゃんとしてくれるから大丈夫よ
と梓は言う

「あ、降谷係長、榎本係長、今夜って時間、
取れたりします?」
「今夜?」
「えぇ、うちの両親が、お二人に会いたいっ
て言ってまして」
「両親って、英国から帰国してるの?」
「はい、オレが呼び付けたんで💢」
工藤は、端整な横顔に💢マークを付け、両
親を呼び付けるに至った経緯を説明した

「なるほどね、いや、話が出来るとは思って
なかったから、助かるよ」
「じゃあ、コレ、父さんの連絡先です
あ、お二人さん、ちゃんと着替えて向かって
下さいね!」

大人だけで話って事は、きっとドレスコード
ありの所に連れて行かれますよ💕じゃっ!

さ、オレは今日は蘭とデートだ!
スキップして部屋を出る工藤を、オレと梓は
唖然として見送った

なぁ、梓
何、零さん
「とりあえず、買い物行こうか」
「そ、そうね
嫌だなぁ、一体、いくらかかるのかしら」

「ま、その心配はいいからさ」
「よく無いっ」
何故かふくれっ面の梓に、どうしたの?と尋ねると、買ってもらいたいんじゃ無いのと言
った
「私が、零さんの服を買うから、零さんは私
の服を買ってね」
だったらいいよ、と笑う

昔から、奢られるとか貢がれるの、嫌がるん
だよね、梓

「じゃあ、そうしましょう」

猛スピードで仕事して、定時にさっと消えたオレらはきっと、明日、色々言われるんだろ
うな
久しぶりの梓とのデート
事件捜査が絡まない外出は久しぶりだ
お互いにドレスアップして、約束の時間に待
ち合わせのレストランへと向かった

「始めまして、工藤優作です」
「有希子です」

優雅に出迎えてくれた二人を、同じ店内の多
くの人が驚いた顔で見ていた
著名な推理小説家であり、脚本家でもある工
藤優作
そして、元女優の工藤有希子が並ぶその様子
は、圧巻だ
この2人を平気で呼びつけられるのは、もう
息子の新一、ただ一人だろう

招かれたのは、個室だった
担当のウェイターは、工藤家の専属だと言い
話を聞かれる心配はない、と優作氏は言った
イタリア料理のフルコースは、梓の好みにあ
ったらしく、珍しく食が進んでいた

「私達が、和葉ちゃんをお預かりしていた事
はもうご存知なのでしょう?」
「はい」
「差し支えなければ、その経緯を教えていた
だけませんか?」
「ええ、そのために、新一の脅しに乗って帰
って来たのですから」

優雅に微笑んだ優作氏が、10年前の話を始
めた

「元々は、私がある事件を追っていて、知り
合いになったんです」

優作氏が追いかけていた事件は、24年前の
あの遠山銀司郎大阪府警本部長が犠牲になっ
たあの多重衝突事故の件だった

犠牲者を一人ずつ調べ、未解決のままになっ
ているその事件を追いかけていたらしい

「実は、最初は気がつかなかったんですが、
有希子と、和美さん、静華さんは、妃弁護士も含めて、知り合いだったんですよ」
「そうなの、大学は、私と英理、和美さんと静華さんと別々だったんだけどね」

武道の大会で、何度か遭遇していて、ある事件を4人とそのパートナーで解決した事があ
ってから、交流があったと言う

「とはいえ、私は女優、英理は弁護士、そし
て和美さんと静華さんは研究員としての社会
人生活がスタートしてからはさすがにね」
頻繁に会う、と言う訳にも行かなくなってと
笑う有希子さん

「優作が調べている資料を見て、びっくりしたのよ」
遠山和美、服部静華と言う名前をその中に見て、関係者写真を見て驚いた、と

「で、私も優作と一緒に、大阪に行って、対面したのが、静華さんが亡くなる半年くらい
前の事なの」
「「半年前??」」
「ええ、そうよね?優作」
「ああ、そうだ、その当時調べた資料をこちらにコピーして来ましたので、どうぞ」
捜査に役に立つかと思って、と言う

「その資料はいずれ、和葉ちゃんに渡すつもりでまとめていたんです」
優作氏は、遠山和美氏と、服部静華氏と直接会って、あの遠山銀司郎氏が亡くなった事件
の話をした、と言う

「時間の都合で、和葉ちゃんと平次くんには
会えなかったのよね」
「あぁ、残念だった」
「何か有益な情報は得られたんですか?」
「それはもう、ねぇ、優作」
「あぁ」

そこで、優作氏が提案したらしいのだ
もし、事件の事で最悪の事態になった場合は
SOSを出してくれたら、子供は自分達が必
ず護るし、助けに来ると

「本当は、和葉ちゃんと平次くん、2人を預
かるつもりだったんです」
「「え?」」

優作氏が言った
遠山銀司郎氏の死の真相には、とても大きな
黒い陰謀が渦巻いていて、その事に、あの賢
い母親2人は気がついていた、と

「自分達はいいけれど、子供達に危険が及ぶ
のは困ると言ってね」
約束では、和葉ちゃんが中学を卒業したら平次くん共々、春から英国で預かる予定になっ
ていて
その学校選びから、部屋から、英国では、迎
え入れるための支度を進めていたと言う

「そんな中、あの事件が起きた事を知らされ
たのよ」

そう言うと、有希子氏の顔から笑顔が消えて
行った

「平次くんの行方が分からないと、和美さん
半狂乱になっていてね」
「ええ、静華さんの死もショックだったけど
大事な一人息子まで行方不明なんてって言っ
て」
混乱する大阪に、有希子さんは変装して入り
遠山所長を励ましたと言う

「でも、和美さんより、和葉ちゃんが」
一人、毎日、行方不明の幼なじみを探して調
べて歩く姿が本当に可愛そうでね

「それで、和美さんに提案したんだ」
予定通り、和葉ちゃんをうちで預かるよって
和美さんには、もしかして、平次くんが戻っ
て来られる時のためにも、大阪に居て、待っ
て居てあげて欲しいって

「ちょ、ちょっと待ってください」
梓が、水を飲んで口を挟んだ

「つまり、服部静華さんが亡くなったのは、
遠山元本部長が巻き込まれた、あの高速道路
で起きた事件が引き金だと??」
「初動捜査で、言われて居た、当時大阪の寝
屋川市で起きていた連続強盗殺人とは、無関
係だと、それを、遠山所長も、あなたたち夫
婦も、ご存知だった、と言う話ですか??」

「半分正解で、半分は、不正解です」
え?
「だから、私達も、自分達の推理が正しいか
どうか、すぐには判断出来なかったんです」
まっすぐに、俺たち夫婦を見据えた有希子さ
んが、言った
「全ては、24年前の事件から、繋がってい
ると、その確かな証拠を掴むのに、とても時
間がかかってしまって」
もし、それがもっと早く出来ていたら、こんな事にはならなかった、その点は深く、深く
お詫びしたい
優作氏は、そう言って、頭を下げた

「いや、やめてください
オレ達は、謝られるような立場では無い」
「そうです」
そして、言った
全部、教えてください、それが、まだ完全に
立証されていない、仮説でもいい
とにかく今は、何でもいい
手がかりが欲しいんだ、と

「そうです、どうしても、私達だけでは見つけられなかった、事件と事件を結ぶ点が欲し
いんです!」
そうしないと、そうでもしないと、と言って
涙を落とした梓の肩を抱いた

「お願いします、オレ達に出来ることなら何
でもしますから」
よろしく、お願いします、と頭を下げた
「いや、こちらこそ、よろしく」
「大事な子供達の未来のために」

オレ達は、工藤夫妻が宿泊する部屋に案内さ
れて、それから4人での情報交換と、その情
報整理に明け暮れた
戻って来る服部平次を迎えるためにも、オレ
達は急がなくてはならなかったからだ


[4]
**2017年8月某日 ~榎本梓の記憶**

鳥蓮と遠山が2人でバイクに乗って帰って来
土産を持って帰って来た2人だが、甘い雰囲
気よりも、切実な顔をしていたのが印象的だ
った

「お騒がせして、すんませんでした」
初めて素直に頭を下げた鳥蓮
零さんが、ズッコケそうになるのが見えて思わず吹き出してしまった

私は、そのまま2人を私の家に呼んだ
シャツにジーンズ姿で来た2人を招き入れて
軽く食事をして、後からやって来た零さんが
持って来たケーキを食べながら、コーヒーを
飲んだ

「じゃ、ここから先は仕事モードで」
リビングに4人で集まり、プロジェクターをつけた

「まず、24年前の事件から」

1993年3月某日
首都高3号線を走る車の多重衝突事故が発生
都合10数台の多重衝突事故で、死傷者は30
数名に登り、遠山本部長を乗せた車両は丁度
その真ん中ら辺を走行していた様子で、運転
手も含め、全員が死亡した

当初は単純な玉突き事故として報道されていたが、鑑識と、科捜研の報告ではそれを否定
する報告が上がっていた

事故の原因は、先頭車両の1台が爆破事故を
起こした事がきっかけで起きた多重衝突事故
だと言う報告だった

この後、捜査は何故か難航した

「被害にあった車両に乗車していた人を、全員身元照会していったんだけど、その、爆破
された車両に居た人物は特定出来ないままだ
ったんだ」
「でも、いくら24年前とはいえ、その車両の車種とか、ナンバーとか、走行ルートとか
何か手がかりはあったはずやんか」
「Nシステムもあったはずやで?」
「あぁ、本気で、調べようとしたらいくらで
も調べられたはずだ」
「どう言う事やの!!
お父ちゃん、現役の警察官やったんやで?
それやのに、事件捜査、手を抜いた言う事な
ん??」

和葉、落ち着け、と言う服部にに肩を抱かれて、ソファに戻された遠山は、真っ青な顔を
して居た

「先、続けてください」
「残念ながら、捜査本部はその後、他の事件に人員を割くために、どんどん縮小されて、
未解決のままに」
「大阪で起きた事故やったら、大阪府警本部
長の敵討ちや、言うてもっと熱が入ったんや
ろうけど、汚職まみれやった府警の立て直し
真っ最中の本部長の事故死が、東京で起きた
とあっては、まずかったんやろ」
「そんな!」
「遠山、残念だが、服部の推理が正解だ
警視庁の連中は、自分達の管轄下で、テロ紛いの行為で大阪のトップを殺されたとなれ
ば、取り返しのつかない騒動になるのは目に
見えて居た」
大きく見開かれた遠山の黒い瞳からは、大粒
の涙がポロポロと零れ落ちた
お父ちゃんは、適当な捜査をされて、適当に
あしらわれてん?
なぁ、平次、何でお父ちゃんは狙われたんや
と思う?
見開かれた遠山の瞳は、誰も見てなかった
零さんも私も、そんな遠山を見て、何も言え
なくなった

背中をあやすように叩いて居た服部が、突然
遠山の顔を両手で挟んで自分の方を向けた
「泣くな、和葉、泣いたら負けやって言うた
やろ?」
オマエ、おっちゃんの一人娘なんやろ?
情けないで?それでも、おばちゃんの娘なんか、おっちゃんの娘やろ、和葉?
ふぇっ、と声をあげて泣きそうだった遠山が
ぐいっと涙を乱暴に拭うと首を振った
すんません、大丈夫です、と

「警察内部のくだらない縄張り意識が、事件の本質に気づくのを遅らせてしまったんだ」
零さんは、窓辺に立って、外を見ながらまた
話を続けた

私達は、工藤夫妻から預かった資料を遠山へ
渡した

震える手で資料を捲る遠山と、それを支える
ようにして一緒に目を通す服部の様子は、ま
るで幼い姉弟が寄り添い支え合う姿と被る

「なぁ、平次、私も平次も留学する予定やっ
たって、そんな話、おばちゃんとした事あっ
た?」
「いや、無いなぁ
ただ、外国やったら、どこに行ってみたいか
ー?みたいな質問やったら、答えた記憶があ
る」
「いつ?」
「せやなぁ、確か・・・中学に上がる少し前くらいかな」
「と言う事は、平次が小学校6年生くらいやった頃?」
「あぁ、オマエの学校の送り迎え、絶賛開催
中やった頃や」
???
「何だ、服部は遠山の学校の登下校、付き添
いでもしてたのか?」
「あぁ、小学校6年の1年間は、毎日や」
「1年も?」

「あぁ、事情があったんです」
遠山が言った
登下校中に、一度、痴漢に襲われて服部に助
けられた事がある、と

それから、服部は毎日遠山を中学に送り届け
てから、小学校へ通って居た、と言う

私と零さんは、思わず顔を見合わせた

「あの頃な、私は大丈夫や、言うても、おば
ちゃんも、お母ちゃんも、平ちゃんの言う通
りにしときって言うて」
「服部、大変じゃなかったの?」
「いや、ちっとも」
「みんな、この話すると、そう言うたんやけ
どな、全然そんな事、なかったんや」

元々、自分は改方学園中等部へ進学するつもりやったから、いずれ通学する時の練習やっ
て思えばよかったし、和葉を歩いている間にくだらん話、すんのも楽しかったし

「それにな、どう言うわけか、和葉の友達に
めっちゃ可愛がられてん、オレ」

毎日、送り迎えする小学生が居る、言うことで、目立ったらしいんやけど、からかう人も
居ったけど、基本、可愛がって面白がってく
れてん

「お菓子とか、ジュースとか、毎日誰かが何
かくれて、和葉を待ってる間は遊び相手、先
生までしてくれたし」
「可愛ええ弟分やー、言うて、みんな楽しみ
にしとったんや、平次が来るの」
男女問わず、遊んでくれたらしい
まぁ、服部の幼い頃は、やんちゃで元気そうな可愛い男の子だったのは、写真を見ればわかるから、可愛がられたのは本当なんだろう

「だから、平次が居らんようになった、言うて、最初は、平次がおばちゃんを手にかけた
んちゃうかってニュースも出て、みんな、そ
れは絶対、あらへんやろって」

それはそうだろう
毎日のように、幼なじみを送り迎えするような男の子が、あんな残酷な殺し方をする理由
がない
服部には、騎士くん、と言うニックネームが
ついていたらしい

「オレ、何度かその当時の遠山と服部、見か
けた事があるよ」
お似合いの、可愛いカップルだな、と思って
た、と言う零さんに、珍しく服部が柔らかな
笑みを浮かべた

「お母ちゃんらは、もしかして、お父ちゃん
の事件を?」
「あぁ、ずっと2人で追っていた見たいな形
跡があったらしい」
「じゃあ、おばちゃんはそれで?」
「いや、事件はもう少しだけ複雑なんだ」

遠山家と、服部家が巻き込まれた事件と、そ
の背景の闇はまだ深い

「君達の母親は、密かにその事故のカラクリ
と、その犯行の黒幕をずっと追いかけてその
証拠を集めるべく、動いていた」

そんな中、10年前のあの大阪寝屋川市連続殺人事件が起きたんだ

「あの事件も、まだ未解決になったままにな
っている」

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1件目: 織物職人強盗殺人事件
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●事件現場
寝屋川市在住、織物工場勤務の職人Aの自宅
2階寝室及び1階居間
●被害者
職人A本人とその妻
●被害状況
現金100万入りの家庭用金庫ごと盗難
●メモ
職人引退を間近に控え、妻と初めて海外旅行
へ行くと周囲に告げていた夫妻
多額の現金は、そのために用意されたものと
みられているが、出所が不明
夫妻に金銭トラブルの要素は無く、質素堅実
を絵に描いたような暮らし振り
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「この事件とこの次に発生した事件は、同
一犯行説で間違い無いと思う」
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2件目: 印刷工強盗殺人事件
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●事件現場
寝屋川市在住、印刷工場勤務の職人Bの自宅
アパート
●被害者
印刷工本人
●被害状況
室内ほぼ総てを家捜しされた痕跡あり
現金及び貴金属類は一切無く、金目のモノは
ほぼ総てを持ち出されていた          
●メモ
室内の数か所に、特殊インクの染みが残留
※後日、科捜研の鑑定結果として、紙幣に利
用されるインクのひとつと成分が一致したと
の報告有り
聞きこみの結果、職人AとBは知り合いのよ
うで、職人Aが殺害された当日、事件現場付
近で、職人Bの複数の目撃情報あり
※ただし、職人AとBの接点は不明で、職人A
の事件現場から職人Bの痕跡は一切出ていない
寡黙な職人肌と言う評判で、こちらも金銭ト
ラブル含め、周囲との揉め事は確認されては
いない
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「公式書類はそうなってんのやけど、私が調
べた結果、ここには書かれてへんことがいく
つかあんねん」

遠山はそう言うと、自分のカバンから端末を
取り出して、プロジェクターに繋げると 、意志のある瞳で語り始めた


第7章へ、
to be continued 

7th heaven side B

Ame&Pixivにて公開した二次創作のお話を纏めて完成版として倉庫代わりに置いています^ ^

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