For you 完全版_7

第6章 最後の夏

日を追うごとに暑さが増し、嫌でも夏を満喫
する日々が訪れた

「試験で、七夕も出来んかったから、夏祭り
くらいはちゃんと楽しまんと」

来年は、着せてあげられへんかも知れんからと、毎年1枚ずつ新調されて来たオカンのお
手製の浴衣
今年はオレのも和葉のも2枚ずつ用意された

淡い水色の浴衣と、紺地の浴衣を手に、和葉
はもう大喜び
帯もそれぞれにあわせて用意されて、オカン
からは簪も譲って貰ったらしい

約束した夏祭り初日は、オレが出先から戻る
のが遅れて間に合わず

2日目は、朝から発生した事件に駆け付けた
オレが帰宅出来ずに無理やった

最終日、どうにか片付けて、急いで家に帰り
着替えて出るところで、次の事件の連絡が
玄関先で盛大に鳴りだした携帯

淡い水色の浴衣を着て、嬉しそうに飛び出す
寸前やった和葉が突然、立ち止まった

「和葉」

返事もしない、振り返りもしない背中に、何
とも言えない気持ち

「電話、出たらええよ」 

一向に鳴りやまない携帯に出る
事件を知らせる緊迫した声に、オレは返事を
する声が上手く出ない

「早う行き、みんな困っとるよ」

俯いた顔から、銀色の雫が落ちるのが見えた
俯いた顔の表情は伺えんけど…

「和葉」
「行ってらっしゃい、気を付けて」

捕まえようと伸ばした手をすり抜け下駄を脱
ぎ捨てて、自室に駆け上がって行ってしまう

オレも浴衣姿やったけど、着替える気力すら
も無い
そのまま、家を出た

黙って、オレらの様子を見ていたオカンは、
何も言わんかった

「あ、平ちゃん!スマンかったな、和葉ちゃ
んと出掛けるところやったんちゃうか?」

オレの浴衣姿に、大滝ハンはすまなそうな表
情をした

「ええ、和葉もわかっとるから」

後ろ髪を引かれる思いを断ち切って目の前の
事件に集中する
結局、大滝ハンらと奔走して、事件解決出来
たのは、祭りなどとっくに終わっている時刻
送ってくれる、と言うのを断って
熱い空気の中、ひとりで歩いた

「どっちの浴衣がええかな?」

嬉しそうに訊かれたので、この間耳にした歌
を思い出して、水色がええと言ったのはオレ

オカンに着付けてもろうて、髪もキレイに結
いあげられて、薄化粧も施されて、
ホンマにキレイやった

一緒に行きたかったのはオレも同じや、和葉

オカンに言われた時、照れずに一緒に写真、
撮ってやれば良かったな

きっと和葉は、全てを飲みこんで、大丈夫
や、と言うやろうな
大丈夫やないくせに

夏祭りはこれからが本番やから他にも機会は
あると思う

でも、今日のは、ホンマにオレも行きたかっ
たんや

子供の頃は親に連れられて
いつしかオレと和葉で、毎年欠かさず訪れた
祭りやった

昨年はギリギリ、最終日には間にあったんや
来年はおそらく見る事は出来ない

和葉を泣かせても、オレは事件を選んだんや
それは、これからもあるやろう

今になって、本当の意味でわかる
親父達の大変さ

オレや和葉との約束を放すたびに申し訳なさ
そうに、笑った顔を鮮明に覚えてん
そして、我慢して涙を拭く和葉の姿も、覚え
ていた

忘れるはずもない、その姿

想いを告げて、まだ一年も経っていない
あれから、2人きりのまともな外出など、片
手が埋まるか埋まらんか、その程度や
その数少ない中で、デートらしいデートは、
一体何回あったか

ホンマはわかっとる
口にはせんけど、和葉がコッソリ毎日、日本
地図を広げていること

日本を離れる前に、未だ行った事の無いとこ
ろを訪ねてみたい
そう言ってた事、忘れるはずもない
だって、その言葉には続きがある
オレと一緒に、と

祭の約束すらまともに叶えてやれ無い現在の
オレには無理やけど、いつか必ず、と思って
いるんや 

謝ったら、許してくれるやろう
でも、傷つけた事は消えん

抱き締めて、キスをする
でも、泣かせた穴埋めというのも何か嫌や
何やこう、上手い事言えんやろか

和葉相手やと、どうもお留守になりがちなオ
レの無駄にIQだけ高い頭脳も、こんな時は
いつだって役立たず

頭を掻きむしっても、何のアイデアも、何の
アイテムも出てきやしない

かなり遅い時間なのに、何故か居間から和葉
のご機嫌な笑い声が響いてくる

「何や、これは」

「あー!ひとでなしの平次くんや!おかえり
なさーい💕」

キャハハ、とこどもみたいに笑う和葉は、い
つもの素っぴんに、いつもの部屋着姿
オレに、隣に座れ、やの、抱っこしてくれへ
んの?やの、オカンの前やと言うのに、ご機
嫌で戯れまくる

「平次、あんた少し和葉ちゃんを特訓させて
からやないと、外で飲ませたら絶対、アカン
よ?」

特訓って、アンタ、こいつに何を飲ませたん
や?

「部屋に閉じこもって、泣きながら勉強しと
るから、そんなん今日はせんでええよ、他の
勉強したらええ言うたんよ」

オカン秘蔵の果実酒コレクション

ちびちび飲んでいるうちに、こんな和葉が出
来上がったらしい
オカンと話しとる間も、オレが取りあげたグ
ラスを欲しがって、ネコのように戯れついて
離れへん

オカンには、可愛く擦り寄るくせに、オレに
は爪立てたり、甘噛みしようとしたり、危険
極まり無い

挙句、油断したオレの首を噛んだ

痛えっ!と思わず叫んで和葉をぐいっと引き
離した
酔っぱらい和葉は、きょとんとしとる

「あ~もう!ええ加減にさらせ!和葉!
終いには怒るで?」

びくっとした和葉の顔が歪む

まずい、これは、アカン
オカンはアメリカンな仕草で首を振っている 

「わーん、誰のせいでこんなんなっとるん、
思うとんのー!ぜーんぶ、アンタのせいや!
あほ💢」

盛大に泣き始めた和葉

「アンタが見たい、言ってくれたから、水色の浴衣着たんに!おばちゃんが、せっかくキ
レイに髪も結うて、簪もしてくれたんに!お
化粧も、してくれたんに」

オカンに差し出されたおしぼりで自分で涙を
拭いながら、泣きじゃくりながら言う

「どうせ私は可愛くないもん!素直じゃない
し」

でも、でも、一緒に行けへんでも、せめて、
嘘でも、可愛ええなーとか、お世辞でも、キ
レイやーとか、言ってくれても、バチあたら
んやろ!

「平次のあほ!一緒に行くの、楽しみにしと
った、すんごい、楽しみやったのにー!」

「口で言えんなら、メールでもええやんかー
今は、伝書鳩さんがいなくてもちゃんと届く
やろー」

「何で、私との約束の時ばっか、こんなんな
るんよー」

「私、一生懸命頑張っとるのに!淋しくて
も、我慢しとるのに!何でや、ひどいやん」

散々泣いて、疲れたのか、おしぼりに顔をつ
っこんだまま、寝てしまった和葉
オカンは冷たいおしぼりを、泣いて腫れ上がった和葉の瞼にあてる

「平次、ちゃんと聴いたやろ?これが、和葉
ちゃんの本音や、よう覚えとき」

絶対に忘れたらアカン

口に出す何十倍も、あの子は我慢して、周囲
を思い遣って生きているのだから、とオカン
は言った

翌朝

「頭が痛い、何でやろ」

風邪でも引いたんかなと呟く和葉は、箸も進
まない
オカンとオレは、ぽかーんとしてしまう

恐ろしい事に、和葉はオレの帰宅も知らんか
ったのだ

黙々と朝食を食べているオレをじーっと見て
いると思ったら、突然、指先がオレの首に触
れる

「平次、昨日の事件、どんなんやったの? 
こんなとこまでケガして」

オレより先に、オカンが吹き出す
自分の顔が一気に赤くなるのがわかる 

「あほ!事件ちゃうわ!」

慌てたオレに、びくっとした和葉はむっとし
た顔

「事件ちゃうかったんやね?あぁそう、そん
なに私とお祭り行くのが嫌やったんやね」

最初から、そう言えばええやん

そう言った和葉の大きな瞳はまた揺らぎ出し
昨日の涙で、赤くなった目元にまた涙が滲み
始めた

「違うわ!事件やから行けんようになったん
や!」
「でも、今自分で言ったやん!事件ちゃうわ
って!」

ぶわっと瞳に涙が溢れるのが見えて、オレは
さらに慌てる

「事件は、和葉ちゃん、アンタや」

怒鳴りあうオレらの間で、優雅に食後のお茶
を飲むオカン

「事件の呼び出しがあったんはホンマやで?
おばちゃん、ちゃんと平蔵さんに確かめたからな💕」

はぁ?

「でも、平次のそこにかみついたんは、和葉
ちゃん、アンタや
目撃者は、おばちゃん、間違いないで?」

犯行場所も時刻も控えてあるし、詳しく教え
ましょか?と言うオカンの説明に、和葉は大
慌て

「どないしよう、おばちゃん、どうしたら治
る?」
「何かようわからんけど、ゴメンな平次、堪
忍や」

慌てる和葉に、お茶を差し出すとオカンが言
った

「和葉ちゃんなぁ、首はまだ狙ったらアカ
ン、手加減がわからん間はダメやで?まず
は、耳から狙ったらええよ」

「わぁ~!!わ~!💢ええから、和葉聞か
んでええねん!オカン!何を和葉にしれ~っ
と教えとんねん!」

和葉の両耳を塞ぎ、オレは全力で騒いだ
余計な事すんな、おばはん💢と

涼しい表情で、オカンはゆっくり食後のお茶
を楽しんでいた

ったく、無闇に煽るなや
オロオロする和葉に、ちゃんと飯を食べ終え
るまで、席を立ったらアカンで!と言い捨て
オレは先に席を立った

洗面所で、歯を磨きながら鏡を見た
昨日、和葉に噛み付かれた場所にはやはり、
赤い跡がある
微妙な位置やなぁ、と思う

顔を洗って、台所を覗くと、気の毒なくらい項垂れた和葉が、進まない箸を進めていた

「和葉ちゃん、アンタは平次がええ言うま
で、外でお酒、飲んだらアカンからね」

成人しても、やで?
オカンに小言を言われ、コクンと項垂れなが
らも頷く和葉

結局、酷い二日酔いにあった和葉は、この日
は居間のソファーに埋もれたまま、ロクに飯
も食えないまま、項垂れていた

オレが悪いんやけど、どうしてあげたらええ
かわからん

お詫びに、べつの夏祭りに誘っても

「持ち上げるだけ、持ち上げて突き落とされ
るから、もうええの」

しょんぼりしたまんま、そう言うだけや

海遊館も、プラネタリウムも、映画や遊園地
も、ぜーんぶ

「入場しようとして、置き去りにされた」
「閉園まで待たされたやん」
「約束忘れたアンタに放されたん思い出すな
ぁ」

力ない声で返ってくる返事

オレは、あまりの自分の余罪の多さと共に、
背後から感じる夜叉から放たれる強烈な殺気
に、震え上がるしかなかった

あぁ、ホンマにどないしよう

和葉の水色の浴衣は、出番がないまんま、時
間が過ぎた
姉ちゃん達が遊びに来た時も、浴衣は紺色の
方を選んでいたからや

紺色の浴衣も大人っぽくて、艶やかでキレイやった

手放しで褒める姉ちゃんや、工藤、晃や翠の前で、オレは上手い事を言えんかったんや
挙式の時は、言えたんに

自分のあほさ加減に、うんざりした

和葉の本音を聴いてからと言うもの、オレはどう和葉に触れてええかさえようわからんようになったんや

何をどう言えば、ちゃんとオレの気持ちが伝
わるやろう、とか
どう触れたらわかってもらえるかとか、
考え出したら、動けんようになってしもうて

傷つけたいわけやない
泣かせたいわけない
好きやから一緒になったんに

日を追うごとに、想いは募るばかり
あの後も、オレは事件に飛び回り、和葉はい
つものように心配しながらも見送ってくれた

指輪も外されてはいない
普段通り、話もするし、世話も焼いてくれた

そう、空回りしとるのは、オレだけや

これじゃあ、アカン
告白前の状態に戻ってしまう
色々考えて、オレは行動に出た

「姉ちゃんか?忙しいとこ悪いんやけど、ち
ょお手、貸してくれんか?」

姉ちゃんは、オレからの電話に驚きながらも
快く承諾してくれて、すぐにリサーチした情
報を提供してくれた

オカンにも、頭を下げてあることを教えて貰
うたんや

帯の結び方と、髪の結い方と、化粧の仕方や
いくつかは既に出来るんやけど、今回はまだ
教えてもらってへんやつを新しく教えて貰っ
たのだ

「和葉、たまにはついて来いや」

地方から依頼があったとして、和葉を連れ出
した

「何や、今日は珍しいなぁ、アンタの方が荷
物、多くない?」

(あほ、半分以上オマエの荷物や) 

「そうか?まぁ大丈夫や」

姉ちゃんに頼んだのは、夏祭りの情報や
人気のところから、隠れスポットまで、教え
てもらった
その中から、この間行けなかった祭りと雰囲
気が似たところを選んだんや 

絶対、悪さはせん、と言う約束を交換条件にオカンと取り引きをして、1泊だけ外泊許可
を得た

事件以外でこんな事、初めてや 

チェックインしてすぐに、あまりの暑さに、交代でシャワーを浴びた
オレは、バスルームから出て来た和葉に、浴
衣を手渡した  

「え?」
「帯は締めたるから、中締めだけ締めて出て
来いや」

オカンが備品は全て用意してくれた
和葉が着替えている間に、自分も着替えを済
ませ、和葉の帯や簪や化粧道具を用意する

「平次?」
「お、出来たか?」

うんと頷く和葉を手を引いて近くに立たせた
オカンに教わった通り、合わせ目をちゃんと
調整してから、帯を締めた
帯留めもして、仕上がりを確認する

「あ、可愛ええな」

鏡に背中を向けながら、和葉もいつもと違う
結び目に、満足そうに笑う

「せやろ?オカンに頼んで教えてもろんた
ん、和葉が自分で結べん結び方、教えてやって」
「そうやったん」
「でもなぁ、オレとしてはこう、くるくるー
っと帯解く方をやって見たいんやけどな」

くいっと帯に指先をかけると、すぐ真っ赤に
なった和葉

「まぁ、安心し、オマエが嫌がる事はせん
し、オカンと約束したし」

ちゃんと、仲直りして帰り、と言われたのだ
和葉を椅子に座らせ、髪を梳いて結い上げた
サラサラの和葉の髪は、結い上げるのが難し
いのだ

コツは教わったから、大丈夫

いつものくだらん会話をしながら結い上げ
て、預かって来た簪を挿す

顔も、オカンに教わった通りにして仕上げた

「ん、これでええ」

水色の柔らかな印象の浴衣は、色白の和葉を引き立てる艶やかさ
結い上げた黒髪に、淡いブルーのクリスタル
がついた簪が映える

シャラん、と揺れるたび鳴るのも心地よい
ほとんどわからない程度に施した化粧は、よ
う似合っていた
淡いピンクの口紅も彩りを添える

「さすがやな、可愛ええで?ま、オレがやれ
ばこんなもんや」

ぽんっと音がしたかと思うほど、真っ赤に染
まり上がる和葉
結い上げて剥き出しになった項まで色が染ま
るのがわかる
軽く抱き寄せるとぎゅーっとしがみつかれた

「あんなんで、拗ねてしもうたし、あの後、
1度もぎゅーもちゅーもしてくれへんし、呆れられとるって思うてた」

小さな声が聴こえる
嬉しくて、安堵して、頬が緩む

「前に言ったやろ?して欲しい時は遠慮せん
と言えって
おまけも付けたるでーって、な」

柔らかな頬に軽くキスを落とす

「あ、アカン、早う行くで」

和葉の下駄も出してやって一緒に部屋を出る
相変わらず武道を嗜むくせに柔らかい掌を掴
んで、しっかり繋いだ

恥ずかしそうに綻ぶ笑顔にくらりとするオレ
街に出て、夏祭りの縁日が立ち並ぶ通りを2
人で寄り道しながら歩く

「おい、あそこ、すげー美人」
「どこかのアイドルかな」

のんきに綿菓子を食べている和葉はまーった
く聴こえてへん様子やけど、男女共に和葉を
見て、遠巻きに騒ぐのをオレはちゃんとわか
っている

楽しそうに笑う姿も、ご機嫌に鼻歌を歌う姿
も、オレが愛してやまない和葉やった

あ、と思う

好きや、やなくて、愛してる
愛おしい、と素直に思う自分に驚く
自然と、自分が和葉に想う気持ちが確かな重
さを持って、深く深く、確実に根付いて、育
ち始めたのを実感した

あぁ、あの歌の通りやな、と思うツレが聴い
ていた、back number の「わたがし」 

歌詞の2人より、オレらはもう少し近い2人
やけど、上手く行かん事もあるし、想う気持
ちは同じやな

「楽しいな」
無邪気に笑う和葉

絶妙なタイミングでそう言った和葉に、オレ
は思わず笑った 

「せやな、楽しいな」

「「ただいま~」」
「お帰りなさい!
いやぁ、和葉ちゃん、可愛ええな」

オカンに飛びついた和葉の頭から簪の飾りが
シャラん、と鳴った

祭りの後、夜寝る時に和葉からとんでもない
罰ゲームがくだされた

「一緒に寝よ」

エッチはええから、ぎゅーして欲しい、と言
う和葉 

一緒に行けなかったお詫びに、ひとつだけ言
う事を聴いてやる、と言うオレに、和葉が言
い出したのだ

オレにとっては、最悪の拷問や
でも、必死で耐えた

まぁ、それも最初だけで、和葉がすぐに眠っ
てしまったのを見ているうちに、オレも寝落
ちしてしまったのがオチ

朝、おはようと笑った和葉を今までに無い距
離感で見れたのは幸せやと思ったけれど、で
も、でも…

「オレのどあほ~‼︎」

と、久々の最大のチャンスを逃した自分に、
和葉に背を向けて崩れ落ちたのだ

帰りに、オカンに見せてあげたいから、と言うのでもう一度着せて一緒に帰って来たのだ

和葉、オレは着せる腕前あげるより、帯をくるくるする方の腕前、あげたいんやけど

でも、まぁええか
一緒に2人だけで泊まりがけの旅行に出る予
行練習が出来た、と思えば、な?

それに、嬉しかったから
オレに触れたかった、と言ってくれたし、オレに触れられるのは、嫌やないって言ってくれたから
抱くことは叶わんかったけど、しっかり抱い
て、キスして触れられただけでも良かった、とせな

言いようもない幸せな気持ちで、眠りに落ちたこと
安心した顔でくっついて眠る顔を見せてもら
ったこと

何よりも、目を覚ました時に、変わらず寄り
添い眠る和葉が居てくれたことが嬉しかった

「平次、顔がだらしないで?」

からかうように笑いながら、オカンが後ろを
通過した

はぁ~、最大のチャンスを与えてくれたんもそれをピンチに変えるんも、このおばはんや

もう全部放して、押し倒しておけば良かった

「オレのどあほ~‼︎」
「平次、何ひとりで騒いどるん」

はっときづけば、オレに冷茶を差し出す和葉
と、思いっきり冷たい視線を送るオカンが目の前に

「和葉ちゃん」
「何?おばちゃん」
「そのあほに、帯くるくるーって、させたり?」

ぽかん、としていた和葉の顔が、一気に真っ
赤になる

「何言うの、おばちゃん!」
「何言うてん、オカン!」

涼しい顔で冷茶を楽しむオカン

「心配せんでも、大丈夫やで?和葉ちゃん
中締めがあるからなぁ、はらりもポロリ、も
無いんやで?」
「おばちゃん‼︎」

高らかに笑うオカンに、固まった和葉に、崩
れ落ちたオレ

あぁ、せやな、これがいつもの定位置、やな
でも、でも

やっぱり、オレはあほや、と思う
立ち直れないほど崩れ落ちたオレに、工藤は容赦無いトドメを刺した

「ばっかじゃねーの?オレなら無理!ぜーっ
たい、無理!やらなきゃ蘭に失礼だろ?」

ふんっ、と言って電話は切られたんや

第7章へ
to be continued

7th heaven side B

Ame&Pixivにて公開した二次創作のお話を纏めて完成版として倉庫代わりに置いています^ ^

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