You're all surrounded [第5章−前編]
第5章 事件発生・前編
[1]
**2017年8月某日 ~鳥蓮英治の記憶**
身体中に痛みを覚えたけれど、オレを呼ぶ声
に、何とか無理矢理目を開いた
「鳥蓮!気が付いたか!!」
「鳥蓮くん!」
ぼんやりした視界に映ったのは、多分工藤だ
ろう、そして、一緒に居たのは和葉では無く
姉ちゃんや
すぐに医師や看護師が来て、オレは診察を受
けさせられて、治療を受けている間に、今度
は冴島と沖田がやって来た
「ケガは全治1カ月、とりあえず最低でも後
2週間は入院だ」
「は?何言うてん」
そう言うた自分の声が、ガラガラなのに驚い
たけどオレはベッドから降りようとしたのを
2人に押し戻された
「傷口が広がる、これ以上ケガを増やして、
これ以上、相方、泣かせるな」
冴島に怒られて、まず、順を追って話せ、と
言われた
「オレ、人払いしてくるわ」
沖田は、庁舎に戻らねばならない工藤達と交
代するために来たと言う
冴島が、オレの横に座り、自身のタブレット
を立ち上げて、庁舎に居ると言う和葉や黒羽
達とビデオを繋いだ
「英治!大丈夫なん?」
オマエの方が大丈夫か、と言うしかない
おそらく、捜査で殆ど眠れていないのだろう
青い顔をした和葉が、画面にしがみつかんば
かりの勢いで現れた
すぐ、和葉の背後に榎本係長と黒羽が現れた
「そっちも人払い完了か?」
冴島の声に、黒羽がOKサインを出すと、
すっと、黒羽は画面の背後に消えた
「冴島さん、OKです」
「了解」
「ではまず、鳥蓮、思い出せる範囲でいい、
あの日の事を説明してくれ」
目を伏せて、記憶を巻き戻す
あの日
オレは、京極家に用意してもろうた部屋の確
認を終えて、異常が無い事を確認して、宿舎
に戻ろうとしてたんや
どうも誰かにつけられとるような気がして、
少し街中を歩いてから、宿舎に戻った
急ぎ、室内を確認して、まだ踏み込まれてへ
ん事を確認してから、オレは侵入者に備えて
迎え撃つ準備をして、待機したんや
堂々と玄関の鍵を開けて入って来たそいつが
オレの部屋の扉を開くのを迎え撃った
持っていた竹刀で、男の腕を討ち、体当たり
してリビングに転がした
すかさず体勢を立て直した男に蹴られて飛ん
だけど、オレも蹴り返して、取っ組み合いの
喧嘩になる
相当訓練されとんのか、慣れへん荒業を繰り
出され、応戦しながらオレは相手の顔を見る
べく、覆面を剥いだ
吹っ飛ばされたらやり返し、リビングは惨状
と化したし、オレもあちこち切ったり打った
りしたんで、身体もしんどくなった
オレとの決着が思うようにつかない苛立ちを
見せた犯人が、より凶暴になって、技をしか
けたオレが、逆にしかけられて、激しく床に
叩きつけられた
意識が朦朧とする中、馬乗りになった犯人が
首を一気に締めあげて来て、投げ飛ばして、
逃げ出そうとしたけれど、引きずり戻された
「悪いな、坊や、オマエには生きていてもら
っては困るんだ」
怨むなら・・・
その後は聞き取れなかった
ふりかざすナイフが見えたのが最後や
そこまで話して、目を開くと、タブレットの
向こうで、和葉が榎本係長に宥められながら
涙を拭っていた
「…和葉、泣くな、泣いたら負けや」
頷いてゴメン、と言うと、豪快に鼻をかんだ
(よし、それでええ)
「ほな、次は冴島さん、お願いします」
「了解」
ここからは、英治が知らん話や、と冴島が話
を始めた
あの日、オレとの通話を終えた後、沖田と2
人で惣菜や日用品を買いこんで、早めに帰宅
したと言う
「よくわからないんだけど、なんとなくその
方が良い気がして、沖田と外食を止めたんだ
でもそれで良かったよ」
途中、和葉に逢った、と言う
「せや、お母ちゃん、どうしてもせなアカン
仕事があるから言うてな、強行的に転院して
しもうたんや」
京都から、秘書業務と研究員を兼務してくれ
とる中森研究員がやって来て、連れて行って
くれた、と言う
「青子と遠山所長はオレが責任持って大阪の
指定された病院まで搬送しましたー!」
画面の向こうで、黒羽が和葉の肩に手を置い
て、オレに手を振った
(アイツ、わざとだな)
「で、お母ちゃん行ってしもうたし、私も一旦家に帰ろう、思うててん」
「沖田が、遠山見かけて声をかけないワケ無いだろ?で、疲れてる遠山連れて、3人で宿
舎に向かってたんだ」
マンションに到着すると、エントランスから
黒づくめの男が飛び出して来て、和葉に体当
たりしたため、和葉が転倒したと言う冴島
それだけではなく、すぐに血相を変えた係長
が飛び出して来て、早く部屋に戻り、オレが
怪我してるから搬送しろ、と言って走って行
ったと言うのだ
「沖田が係長の後を追って、オレと和葉ちゃ
んでオマエを発見したんだ」
病院に搬送して、和葉はすぐに逃げた犯人を
追跡するため、捜査に入ったと言う
「相方がやられたんや、その犯人は私が挙げ
な、誰が挙げるんよ」
さっき泣いた事など忘れたかのような強気の
和葉に、冴島も、そうだな、と苦笑した
「結局、犯人はまだ見つかって無いんや
でも、必ず捕まえたるから、待っててや」
見舞い、行けんけど、堪忍やで、と言う
(え?アイツ、来ない気なんか?一度も)
え?と思うと、画面の向こうの榎本係長が思いっきり笑っている
和葉はきょとん、としとるけど
(しまった、顔に出たか)
「遠山、せめて、一度くらいは来てやれ」
冴島がそう言って、通話を切った
「係長は、察監の事情聴取を受けてる」
「?」
「オマエを襲った犯人、取り逃がしたのは、
わざとじゃないかって、余計な事を言った奴
が居るみたいでさ」
「…」
「沖田も呼ばれたんだ
でも、アイツはちゃんと冷静に、正確に証言
したから、一応係長の疑いも晴れたんだけど
ちょっとな」
「ちょっと?」
「どうも係長、閲覧制限がかかっているDB
にアクセスしたのがバレたみたいでさ」
「DBに?」
何故、制限がかかったデータベースなんかにアクセスしたんだ?
ってか、アイツだったら、ハッキングはお手
のモノだろうが
「オレは、わざと見つかるようにアクセスし
たんだと思うけどね」
冴島も、公安のエース時代の武勇伝を知って
いるだけに、あり得ないと言う
「もしかして、わざと察監を受けるため?」
「おそらく」
もう数日間、現場を離れていて、その間、7係は6係の榎本係長が兼務して見ているらしい
「多分、通常の捜査では入手困難な資料を手に入れようと無理してんじゃないかな」
冴島はそう言って、オレが暴漢に襲われた事
件の捜査状況をまとめたものを渡してくれた
「この事件、一課長は別の班にやらせろと言ったらしいんだけど、榎本係長が猛反発し
て、6係が調査している」
「オレと沖田は、6係の担当分の事件を片付けながら、オマエの警護だ」
「オレの警護はもう要らん」
「いいや、必要だ」
その身体では、自分の身体を護るのもギリ、
だぜ?そんなんで、男としていいのかよと、
珍しく荒っぽい口調の冴島
「オマエが服部平次だって事は、オレと、沖田、黒羽、榎本係長だけはもう知ってる」
遠山は、最後まで口を割らなかった
係長に、オマエはいつから知ってたんだって
どんなに厳しく叱責されても
係長が、事情は後で話す、として教えてくれ
たんだ
護るためには、知っておくべきだと言って
冴島は、静かにそう語った
「そっか」
数日前、オレは係長宅から密かに取りつけて
いた監視カメラや盗聴器を取り外し破棄して
いた
降谷元夫妻の会話と、夫妻がプライベートを
犠牲にしてあの事件を密かに再捜査している
のを見てしまったからや
その瞬間、オレは接続を総て切り、処分した
もう、オカンを殺した奴の名前とかはわかっ
たし、アイツはホンマに何も知らんかった事
もわかったからや
焼き捨てて、焼き捨てたモノも廃棄処分した
ので、もう痕跡は無い
そうしといて良かった、と思った
「でも、オマエがやられっぱなしでおとなし
くしているともオレは思ってない」
だから、後3日だけ、オレの言う事をきけ、
後は、骨は拾ってやる、と言う冴島
仕方が無いので、承諾したオレに、鬼はずっ
と付いていた
よっぽど信用無いんだな、と言ったら、沖田
共々、「ない」と即答された
そして、オレの予想通り、和葉も一度も見舞
いに来ようともせんかった
体調を気遣うメッセージは届いたけれど、オ
レは心配されるより、和葉の顔が見たかった
んや
(和葉のアホ、覚えてろよ)
それから3日間、オレは文字通り「手厚い」
看護を受けた
右肩を負傷したので、右腕を吊るされている
オレに、冴島、工藤、沖田は嬉々として世話
を焼きまくった
飯を食べさせるのも、身体を拭くのも、歯磨
きやら着替えまで
「こんな時じゃねーと、服部いじれねーからな」
和葉ちゃんに、一言一句、正しく伝えてやる
から何でも言え、とまで言われたのだ
まず、元気になったら、真っ先に工藤をシメ
る、姉ちゃんにバレへん方法で
オレは堅くそう心に誓った
夜、突然黒羽がひとりでオレを訪ねて来た
「この、バカたれが」
問答無用でオレの頭を叩いた
「何すんねん!」
「いつまでケガ人面してるんだよ」
そう言うと、オレの手にタブレットを持たせた
「和葉ちゃんが解析したレポートだ」
和葉が仕上げたと言うレポートは2本
科捜研の宮野所長と共同名義になっていた
1つ目は、自身の母親が巻き込まれてしまった新幹線爆破事件に関するモノ
爆発物の特徴や被害状況から、爆発物が設置
されたポイント、その威力や構造に至るまで
詳細なデータがあった
そして類似事件として、24年前に発生した
高速道路多重衝突事故の事も
「これって…」
黒羽は表情を変えず、オレにちゃんと最後ま
で全部を読めと促した
多重衝突事故は結果であって、最初のきっか
けは1台の車両で起きた爆破が原因であると
レポートでは指摘があった
そして、その爆発物と、今回新幹線で利用さ
れた爆発物は、威力、構造、類似点が多過ぎ
ると言う指摘だ
もうひとつは、オレが襲撃された事件につい
て、だ
降谷係長の目撃証言、そして地域の防犯カメ
ラ映像から、犯人の特定をしていた
松萩研二こと、原田陣平
元公安警察官
風見が後任に就くまでの間、長きにわたり、
降谷の右腕として任務についていたバディだ
そして、そのレポートには、原田の顔写真が
あった
警察官時代の写真と、防犯カメラ映像から、
和葉達がソフトを使って作成した現在の奴の
似顔絵までが作成されていたのだ
「…コイツや、オレ襲ったん」
そして、そのレポートにはさらに続きがあっ
たんや
2006年4月に起きた、大阪服部邸殺人事件で
行方不明になっている服部平次を追跡してい
た姿を目撃した、と言う和葉の証言
身長や、首筋のケガを含めて、身体的特徴を
正確に記載している
「こんなん、オレ、知らんで!!」
オレは、犯人の気を自分に向けさせようとし
て、わざと追われるようにして逃げた
和葉が、あの時、犯人と間近で接触していた
など、オレが入手した書類にはどこにも無か
った証言や
一気に血の気が退くのがわかった
「遠山のこの証言が、現在新たな火種になっ
てるんだ」
黒羽は言った
和葉は、自分の証言した内容が調書にちゃん
と総てが記載されていない、と主張している
のだ、と
そして、和葉は、当時の日記帳をちゃんと持
っていて、いつ、誰に、何を証言したのか、
その総てを控えてある、と言っていると
「…大阪の遠山家が放火されたんだ」
「えっ!」
「幸い、警邏中の警官が気付いてすぐに消火
したから、ぼやで済んだけど」
それは、和葉が問題発言をした翌日の事だっ
たと言うのだ
「和葉ちゃんが、ここに来ない理由、オマエ
ならわかるだろ?」
そう言って、蒼い瞳をオレに向けた黒羽
学校で、オレを誰かが追いかけるのを見たと
言う和葉の証言は、丸ごと削除されていたの
だと言う
だから、和葉が伝えた容疑者の情報も何一つ
捜査には反映されなかった
和葉も、漸く入手出来た調書を見て、初めて
自分の証言が思いっきり改ざんされている事
に気が付いたらしい
「英国で、優作さん経由で入手した情報を見
て、声もかけられない程泣いてたよ」
自分が、平次を殺したようなもんだって言っ
てね、と言う黒羽
「この貸しは、でかいからな」
和葉は、近日中に再度聴取を受ける事になっ
たらしい、あの事件の事で
ただ、降谷は、それを強行に反対しているら
しく、府警の担当者に、こっちに来て聴取を
しろ、と言って喧嘩になってるようなのだ
まぁ、大滝本部長が仲裁に入って、本部長自
らが担当者を伴って出向く、と言う事で決着
したと言うのだが…
「オレは降谷さんの懸念している事、わかる
んだ」
和葉ちゃんの主張が事実なら、当時の捜査で
捜査員か、上層部かが捩じ伏せたと言う事になり、警察内部に犯人側に手を貸した人物が
居た事になる、と言う黒羽
「つまり、係長は府警内部に裏切り者が居る
と?」
「うーん、府警に居るのは居ると思うんだけ
ど、どうも、もっと上にも協力者が居るんじ
ゃないかって、警戒しているみたいで」
あの事件の裏には、まだ何かがあるとオレも
そう思ってる、と言う黒羽
「だから、和葉ちゃんが危険なんだ」
とりあえず、現在和葉ちゃんが住んで居る宮
野一課長の妹さんのマンションには24時間
体制で警護が入ってる
オマエはとっととケガを治して、証言する時
が一番危険だと思うから、早く現場復帰しろ
ちなみに、和葉ちゃんが証言するのは、係長
達が色々言い訳こじつけて、1週間後として
あるから
「遠山所長の方には?」
「心配しなくていい、こっちから警護の担当
送り込んだから」
ちゃんと、イケメンを送り込んでおいたから
大丈夫だよ、と笑う黒羽
「10年なんて長すぎるぜ
とっとと蹴りつけて、みんなで次のステージ
行こうぜ」
じゃ、交代の時間だから、と去っていく
「おい、忘れてるぞ?タブレット!」
「それ、和葉ちゃんから借りて来たやつに、
オレからのプレゼント、付けておいたから」
?
ファイルを開くと、写真があった
和葉が、英国に到着したところから、最後に
日本に帰国するまでの5年間、節目ごとに撮
影されたもの
オレの知らん、和葉の5年がそこには在った
そして、隠しファイルの中には、オレが一番
イラッとするリストが在った
黒羽が、現地で和葉にいい寄る虫を撃退した
戦歴があったんや
…ご丁寧に、5年分
そして、有希子さんに着せ替え人形にされて
いる和葉の写真(コスプレもどきからセクシ
ー路線まで)もあった
この状態のオレにどうしろと?
あの黒羽め💢
和葉の部屋には、オレとの写真がちゃんとい
つも飾ってあった
約束の3日間を過ごし、4日目、オレは庁舎
内部での内勤であれば、と言う事で職場復帰
を果たした
「英治!」
ホンマに大丈夫なん?お見舞い、行けんで、
ホンマにごめんな、と言う和葉
「遠山、アンタ、一回帰りなさい」
さすがに仮眠室と捜査で缶詰なんて、限界超
えてるわよ、と榎本係長
「そうよ?私も変な人達とばっかり過ごすプ
ライベートなんてごめんだわ💢」
「志保さん」
「榎本係長、君ももういいよ」
「あら、解放されたの?」
つまんないわねー、もう少し遊んで来たら良
かったのに💕と笑う
「明日、10:00に鳥蓮が襲撃された現場に
集合」
今日の夜勤当番以外は解散、と言う降谷は、
引き継ぎがあるから、と榎本係長と一緒に会
議室へと消えた
「英治、ホンマに大丈夫?」
「オマエのその顔の方がヤバいで?」
手を伸ばして、目の下に触れると、あー、やっぱり?と頬に手をあてて困った顔をした
「オマエ、何であんな爆弾発言したんや」
「アンタを襲撃した犯人、取り逃がしてしもうたんや」
「え?」
和葉が、教えてくれた
あの後、和葉と、風見と、工藤らで犯人を追
跡しとった、と
一度、捕獲のチャンスがあったのに、結果的
に取り逃がしてしもうた、と
「私が捕まえなアカンかったのに」
悔しそうな顔をした和葉の髪をくしゃり、と
撫でた
「オレの楽しみ、取るなや、和葉の分際で」
「何やて?もうっ」
ふくれっ面をした和葉の頬を突いた
「あのー、お二人さん
オレらの存在は、ガン無視ですかー」
「結構、色々活躍したと思うんですけどー」
「私も、色々手伝ったんだけどなー」
あ、と思うた
椅子に跨り、オレと和葉の真横で観戦してい
る冴島と沖田と宮野所長に気が付いた
「いや、その、あの、なぁ」
慌てるオレと、頬をピンクに染めた和葉
会議室から戻って来た係長達は、何だこの空気は?と言っていた
そして、宮野所長と榎本係長に抱えられるよ
うにして、和葉は連れていかれてしもうた
(数日振りに逢えたんに、たった30分にも
満たない逢瀬か?)
思わずふてくされそうになるオレ
「気持ちはわかるが、オレだって同じだ
鳥蓮、黒羽、冴島、沖田、会議室へ」
間もなく風見も来るから、と言ってオレらは
会議室へと向かった
[2]
**2017年8月某日 ~遠山和葉の記憶**
7月のあの日
平次は宿舎で謎の暴漢に襲われて、重症を負
った
飛び込んだ部屋で、動かない平次を見つけた
日のことは、今思い出しても震えが走る
冴島さんに叱咤されながら、平次の手当てを
手伝って、病院行って、手術が終わるのを待
った
「少しの間だけ、2人にしてやる」
冴島さんがそう言うて、集中治療室に私だけ
にしてくれた
「英治」
不安定やけど、ちゃんと呼吸もしとるし、鼓
動も鳴ってる
傷に触れんように抱きしめるのは大変やった
けど、抱きしめた
おばちゃんよりは温度がある
大丈夫や、きっと、大丈夫
英治の手を指先を絡めて握りしめた
ちょっとの間、しっかり寝ててや?
その間に、犯人、逮捕してくるからな?
冴島さんによしよし、とされて、元気に行っ
ておいで、と背中を押されて病院を出た
私は、捜査に出たかったけど、7係は待機を
命じられたんや
身内の捜査はアカン、言われて
だから、私は部屋に居て出来ることをした
志保さんに協力して、捜査資料の整理から、
分析、考察、とやり尽くす程やって、少しず
つレポートをまとめたんや
お母ちゃんの事件、そして英治の事件
爆発物の解析、採取された微物の鑑定
てんてこ舞いの科捜研の手伝いに従事して、
その時を待った
「和葉ちゃん」
「蘭ちゃん」
一緒に食べよう?とアイスを揺らす
食欲が無い私に配慮して、だ
無理に食べても、その後がよろしくなくて、
私は医務室にお世話になりっぱなしなのだ
蘭ちゃんが、捜査本部の動向や、現在の捜査
状況をアイスを食べながら説明してくれた
そして、1番知りたい英治の状況も
「お医者さんは、多分、寝てるだけでしょうって言ってるんだけど」
取り敢えず、身体はどんどん回復しているみたいだから、寝不足解消して目を覚ましてくれるのを待ちましょう
「うん」
「和葉ちゃんも、無理しないでね?
せっかく、鳥蓮くんが目を覚ましても、和葉
ちゃんが元気無かったら、心配するよ?」
落ち着いたら、一緒にごはん、食べようね
蘭ちゃんはそう言うと、後片付けをして本部
へと戻って行った
数日後、少しやっかいな事件が発生して、本
部に欠員が出て、私は本部に呼ばれた
潜伏先のガサ入れを決行する、と言うので、
私はバイクでその周辺を流しながら待機する
事になった
ところが、潜伏先に突入した面々が犯人に返
り討ちにされて、脱走されてしまったのだ
私はバイクで追跡を開始したんだけど、途中
黒塗りの外車が突然現れて進路を阻まれてし
まい、取り逃がしてしもうたんや
当然、本部では激しく叱責されたけど、榎本
係長が現れて
「は?何を検討違いな事、言ってんの?
そもそも、踏み込んだ連中が揃いも揃って、
やられた事が問題でしょうが💢」
大の男が全員返り討ちに遭うとか、そっちの
方が理解できないんですけど?と言ったのだ
「しかも、バイクや車で流していた捜査員も
遠山以外、誰も追いついて無いって、一体、
どう言うことなの!」
やる気、あんの?と言ったのだ
「それと、前島刑事」
「は、はい」
「踏み込んだ連中の中、アンタだけ無傷だし
スーツに汚れひとつ無いみたいだけど、アン
タ、本当に、現場にいたの?」
捜査本部の空気が、一瞬で変わった
確かに、踏み込んだ面々はみんな酷い惨状の
中、彼だけはビシッとしたままだったのだ
絶句して、立ち尽くした前島刑事は、そのま
ま管理官達に連行されて行った
「あの、コレを見て下さい!」
場の空気を変えるために、私はある映像をス
クリーンに流した
「ウェアブルカメラを身に付けていたんです
が、この車です」
流して走りながら、周辺の映像を撮っていた
その中に、何箇所かで、あの黒塗りの外車が
映る
「何だ?この車」
捜査員達も、まるで警察の動きを察して邪魔
するために待機していたような動きに、ざわ
ついた
一枚だけ、車内の様子を捉えたものがあった
銀髪ロン毛の男と、いかつい男が映る
「こちらの男、実は過去の事件資料にも画像がありました」
さらにざわつく本部内
「10年前の春、大阪の寝屋川市で発生した
服部邸殺人事件で、周辺の防犯カメラ映像に
映り込んでいた車両と、車内の映像がこちら
になります」
比較映像をスクリーンに映した
「どう言うことだ?どうみても、同一人物
じゃねーか!」
こいつら、絶対、何か知ってるな
そう言うと、一斉に捜査員達は飛び出して行った
私も、街に出た
実はこれ、全部、榎本係長の差し金やった
幹部達を出した後、多数の捜査員の前であの
証拠を見せれば、誰も完璧に証拠隠滅は出来
なくなるから、と
データのバックアップはもちろん取ってある
私は街を流しながら更に映像を撮って、次は
周辺の防犯カメラ映像を掻き集めてから、庁
舎に戻り、消えたあの黒塗りの車の行方を探
し出す事に専念した
捜査員達は、みんな必死で犯人を追った
工藤くんらも、平次の警護と並行して捜査に
あたってくれたし、蘭ちゃんや、黒羽くんも
ホンマにようやってくれたと思う
それでも、あの男らの身元は中々特定されん
ままで、捜査の手詰まり感も半端ない状況に
陥った
このままでは、また、同じ事が繰り返される
私は、最後の手段に出る事にした
事前に、ひとり大滝ハンと逢った
「迷惑、かける事になると思うけど」
「ええんや、和葉ちゃん
それで、平ちゃんを捜す事が出来るんやった
ら、ワシも漸く、おやっさんや静さんらに、
顔向けが出来る、言う事や」
「大滝ハン」
「ワシは、一度も忘れてへんで?嬢ちゃん」
嬢ちゃんを、初めて抱いた日の事も、
平ちゃんを、初めて抱いた日の事も
「お座りが出来るようになって、はいはいしたり、立ち上がる事が出来るようになって、
歩き始めるようになって」
ずっと、ずっと、成長を見て来たんや
…あの日までは
「ワシも、あの事件捜査には、不満も疑問も
仰山あんねん」
大滝ハンは、被害者遺族と近すぎる関係にあ
ったから、言うて、捜査本部には入れてもら
えへんかったらしい
独自で捜査しようにも、急に他府県への応援
を命じられて、泣く泣く大阪を離れたらしい
んや
「しかも、その応援捜査は、半年以上もかか
ってしもうたんや」
ここが終わると、次、次、と、最後は海外ま
で行かされた、と言った
「どう考えてもおかしいやろ?」
「せやね、お父ちゃんや、お母ちゃん、
おばちゃんや私らと一番、仲が良かったんを
知ってる人やろか?意地悪したの」
「まぁ、目星はついとるんやけどな、決定的
な証拠を抑えられんかったんや」
「誰なん?」
「それは、いくら和葉ちゃんの頼みでも無理
やわ」
大滝ハンは、穏やかに笑った
「ええか、嬢ちゃん」
嬢ちゃんがやろうとしとる事は、間違いなく
戦争を始めるのと同じ事や、と
今まで以上に、身辺には気を付けるように
そして、ワシも、大阪の人間として嬢ちゃん
とは対峙する演技をせな、周りを騙す事は出
来ん
「わかっとるよ、ごめんな、嫌な役回り、さ
せる事になって
みんなにも、不愉快な思い、させる事になっ
てまう」
「嬢ちゃん、そんなぬるい事、言うてたらア
カン、鬼になれ、ええな?」
事件が解決したら、みんな嬢ちゃんの事をち
ゃんとわかってくれる
せやから、それまでは我慢や、ええな?
「うん、堪忍やで」
「和美さんの事は、ワシに任せとき
必ず、護ってみせるし」
「お願いします」
「嬢ちゃんも、長い間、よう頑張ったな」
「きっと、一番頑張ったんは、どこかでまだ
頑張ってる平次や」
「せやな
早う、平ちゃんが見つかるよう、あとひと息や、頑張ろうや」
「よろしゅうお願いします」
「了解、でも、こう言うお願いは最後にして
や?嬢ちゃん」
次は、一緒にバージンロード歩いてください
って言うお願い以外は、ワシ、訊かんからな
わっはっはー、と豪快に笑って、私の頭を撫
でた大滝ハンは、私より一足早うその場を立
ち去り、街へと消えて行った
翌朝、私は志保さんと連名であるレポートを
捜査本部で開示した
10年前、自分が証言した内容が、正確に調
書に残されてへんと言う事と、その時の犯人
が誰であるか、と言う事
そして、その犯人が再び今回の事件で暗躍
している事を糾弾したんや
当然、庁舎内に激震が走る
犯人の中に、元公安警察官が居ると言う事
当時、現役公安警察官だった彼が、大阪の科
捜研所長を暗殺実行した可能性があると言う
事が、公になったんやから
当然のように、私は監察対象になり、24時
間体制で監視がつけられた
こうなってしまえば、英治のお見舞いなどと
のんきに行く事もかなわん
工藤くんが、そんな最中、監視を巻いて、私
を工藤くんの両親と再会させてくれた
「和葉ちゃん!」
「有希子さん、優作さん」
時間があまりない、手短に、と言う優作さん
の話を訊いて、私はあるお願いをした
「了解、和葉ちゃんも気をつけて」
「うん」
「事件が終わったら、英治くん、紹介してく
れよ?」
「わかった」
工藤くんにはお礼を伝えて、私はまた監視下
へと戻った
平次は、結局1週間眠り続けて、工藤くんと
蘭ちゃんに叩き起こされるようにして、目を覚ましたのは、8月に入ってからの事やった
第5章後編へ、
to be continued
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